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フジシロマユミ
フジシロマユミ
novelistID. 5831
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だから俺は歩いてゆく

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国家擬人化漫画「ヘタリア」の設定を借りました二次創作です。
捏造キャラが英と絡みます。
腐向けでない、時事ものとなります。で、人物は国名でなく人名表記
となります。
W杯サッカーに絡んだものです。

まったく健全で申し訳ありません。




欧州チャンピオンリーグのテレビ放送が一息ついたので、アーサー・カークランドは遅めの紅茶の時間をとることにした。
今年は何よりW杯南アフリカ大会。もともとサッカーは国技でもあるので、関心がないわけではなかったが、しかし、南アフリカまで行って応援するにはちょっと・・・・・と言う気持ちもあった。

チケットが取れなかったこともあったのだが、第一南アフリカまで行く勇気がない。かの国には申し訳ないが、治安が悪いとかねがね聞いていたので、躊躇したのも多少はあった。

「ま・・・BSもあるし、これはこれでいいとするか。菊も行かないらしいしな・・・。」

薬缶の湯が沸くのと同時に自室の電話が鳴った。
固定電話が鳴るということは、はっきり言って親しいやつではない。上司か、はたまた何かの勧誘か、どうせろくでもない電話に決まっている。


そういえば、菊のところでなんだか「オレオレ詐欺」というのがあって、年寄りが孫や子供からの緊急の電話だと思ってたいそうな金を振り込んで、後になってだまされたことに気がついた、なんていう事件が頻繁に起こっているらしいじゃないか。イギリスでまさかそんなことある分けないとは思うんだが・・・お!ちょっと薬缶の火消さなきゃ。
ちっ、沸かし直しの湯じゃ折角の紅茶が台無しになっちまう。


「はい、もしもし」あからさまに不機嫌な声で出る。

「俺!俺だよ!おれおれおれ!」なんだか威勢のよい声がした。

「はあ?どなたですか?」

「俺だってばあ!忘れたんか?俺だってよー!」
やたらと馴れ馴れしい。むかっ腹が立ってきた。

「悪いが名乗らぬやつには電話を切らせてもらうが」

「あ・・・・・そうか。悪いなあ。俺だよ。ユーゴ・・じゃねえ。セルビアのカラジェノビッチ!」

「は・・・・?カラジェ・・・・ええ!お前か!お前生きてたのか?いつオランダのハーグから出てきたんだ?脱走したのか?」

「ばーか!ちげーよ!久しぶりだな?俺の上の名前覚えてっか?」

「あ・・・ああ、マキシミリアン・・・・だったな・・・・・。何十年ぶりか?」


とにかくとんでもない奴からの電話だった。
今をさかのぼること70年ほど前の第二次世界大戦のとき、ドイツの空爆で自分の国・・・ユーゴスラビア王国が壊滅し、血まみれの体で自分の上司をロンドンへ送り届けた白髪頭で背の高い青年・・・・。そのままロンドンに居座りユーゴスラビア王国政府のために東奔西走していたのだが、ある日突然上司をそのまま置いてきぼりにし、再びバルカンの地へ帰っていった奴。

「すまんが、上司を変えることにした。じゃ、さいなら」

なんやかんやでドイツを追っ払った後は(とにかくその時の戦いはほぼ伝説と化している。ドイツをこれでもか、というくらいにぼこぼこにしたらしい。向こう気の強い奴だ)
再びユーゴスラビアの名前に変わり、今度はロシアと喧嘩。かつての連合国にも属さず、ゴーイングマイウェイで突き進んでいった。

しかしながら、あのベルリンの壁崩壊とともに彼らの国も今度は自分から崩壊した。そのときの崩壊の仕方はこちらが止めようとしても止められないぐらいの悲惨な結末となった。多くの血が流され、多くの命がかの地に沈んだのはいまだいえぬ傷を彼に与えた。
サッカー場すら、墓場にしないといけないくらいの状況だった。

・・・・・だからマキシミリアン・・・・・あれほどまで言ったのに・・・。

・・・俺、俺だってひとつの国だったほうが良いに決まっているさ!勝手に出て行く奴がいるからこうなっちまってよ!知るか!

戦争犯罪を裁くオランダはハーグの国際法廷の場で手錠をかけられ、さらに白くなった頭を振りながら、大声で叫んでいた。
マキシミリアン・カラジェノビッチ・・・・。


「ああ!カークランドよー!俺んとこさあ、今度W杯出るの知っているか?」

「おお!そうだった。久しぶり・・・でもないか?」

「まあ、「セルビア」という名前で出るのは初めてだけどさ。俺、何回名前変わっているんだ・・・」

「変わりすぎだぜ。で、なんだ?なんか、用事でもあるのか?金のことなら申し訳ないがいろいろあって、出せないぞ」

そうだ、第一ギリシャのヘラクレスの家が実は破産寸前だったことが判明して、ルートヴィッヒとギルベルトの二人が「面倒見切れない!」と騒いでえらいことになったのは記憶に新しい。

「分かっているって。あのクラウツんとこが、がたがた言ったんだろう。まったくいけすかないよ。第一あいつらには本当に困らせられたんだ。兄貴が連れていかれてせいせいしたんだがな。まあ、俺んとこの元兄弟がなんやかんやで世話していて、むかつく!それに20年前のあの会議は何だ!ったく。そのせいでぐちゃぐちゃにされたんだよ!今度W杯で一緒の組になったから、今度こそあいつらぼこぼこ・・・」

「おいおい、ボールに何かしこむなよ。お前だったら本当にやりかねないから」

「あははは!やらねえよ。合法的にやりますって。サッカーといえば、この前お前のダチのええ・・・と、日本か、そことやったんだが。」

「ああ、聞いたよ。とにかく歯がたたなかったらしいな。」

「当たり前だよ!こっちはサッカーに対する気持ちが違う。ボールに食いついてゆく気持ちが日本にはなさ過ぎる。やっていてつまんなかったなあ。あ、お前日本と親しいんだってな?悪いが、伝えてくれ。今度の代表監督は俺んとこのストイコビッチにしてくれってな。」

「個人的な意見言うな!で、言いたいのはこれだけか?」

「おおっと。もう時間だ。俺さあ、これからケープタウンに行くんだ。」
「おや、なんだ?ビジネスか?」

「いいや、サッカー見に行くんだ。」
「おお、それはご苦労だな。・・・って随分早くねえか?」
「歩いていくんだ」
「は?」
「だーかーら!歩いていくんだよ!楽しいぜ!きっと。もう行程も決めた。ヒッチハイクで行くんだよ」

「えええええ!マジか!大丈夫なのか?」

「ああ、平気平気。一年前からいろいろ調べたんだ。だから大丈夫。じゃ、もう出発する時間だ。じゃな!ケープタウンで会おうな!」

ガチャ! ツー、ツー、ツー・・・・・・・。

おいおい・・・・・・。ケープタウンで会おうって・・・・。マジか、マジなのか・・・・・・。
あああ、フランシスに止めてもらおう!



(了)