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二酸化炭素に溺死.

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酸素、が、足りない。
 まるで息継ぎのように、性急な吐息。ぷはっ、と、軽く、一瞬だけ吐いて、また、重なり合う唇と唇。熱くて熱くて熱くて、もうそこから身体中が蕩けてしまいそうだ。俺のか彼の、熱い舌がぬめぬめと絡む。咽返るような雰囲気に、呑まれて、息も、出来ない。瞼を開けることすらもままならなかった。吸うように、吐くように、刺すように。荒んだ、乱雑なキス。それは決して甘くなんてなくて、いつだって、苦い。シガレットの心地好さ。唾液から伝わるほろ苦さが、俺を、ひどく堪らなくさせた。噛むように食むように、彼はそう、さも食べてしまうかの如く俺を欲する。だからそれに負けてしまわぬよう、食べられてしまわぬよう、必死で彼に食らいつく。なんて獰猛。なんて苦しい。そんな、激しい、キス。
 セヴンスターの香り、が、やたらと鼻についた。あ、あ、あ。にが、い。だから、やめてって、ゆった、のに。と、半ば朦朧としている脳味噌で思う。にがいにがいにがいにがいにがい。苦さは嫌いではない、嫌いではないのだ。だけれども、こう、なんとゆうか、甘ったるい、咳き込むような雰囲気の中で、どうにも調子が狂って仕方が無い。舌先を撫ぜる苦々しさ。その動きは呆れるほどに丁寧で、どうしてか、下腹部の辺りがきゅうんとした。切ない。切ない、よう。なんだかひどく切なくて、泣きたくなる。なぜだろうか。なんにも、何一つだって、哀しいことなんて、ありはしないのに。彼が腕の中に居て、それだけでもう、幸福なのに。あ。ぽろり、はらり。
 見ると、知らず知らずのうちに、俺は泣いてしまっていたらしかった。すると彼はひどく困惑して戸惑って、急いて唇を離すと、目に見えておたおたとし始めた。どーした?だいじょーぶか?苦しかったのか?平気か?おい、聴いてんのか?その様子があんまりにも可笑しくて、今度はけらりけらりと笑ってみせる。と、彼は拍子抜けしてしまったようで、眉根を八の字に寄せて、きょとんとしている。ねえ、にがい、よう。は、苦いから泣いたのか?なんだか違う。と、俺は咄嗟に思ったのだけれど、このじぶんにもとても不可解な感情を、他人、ましてや彼なんぞに説明することは、ひどく骨の折れる、難儀なことだと考えて、止めた。うーん、まあ、そんなとこ。なーんだ、オコチャマだなあ。そうすると彼はしたりカオで、偉そうに俺の頭をしゃくしゃくと撫でてみせた。
 ちょ、何やってんの、ぜんっぜん嬉しくないかんね!しかも、煙草、やめてってゆったじゃん!苦いんだよそれ!きゃんきゃんと喚きながらも、彼の吐息や唾液から伝わるその苦々しさは、まるで、俺を捉えるかのように、舌先にざりざりといつまでも残る。それは、俺を放そうとはしない。溺れそうな程の煙草の香りの中で、俺は、必死に息をする。だけれども、もう。
 俺は、それなしでは居られないのだ。

(末期の、重度の、ニコチン中毒者のようだね。)
作品名:二酸化炭素に溺死. 作家名:うるち米