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フランスのドラゴンスレイヤー

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轟っ!

 木々が揺れて大気が震える。怒りに満ちた咆哮が荒野一面に鳴り響く。
全てに恐怖を与えるその叫び、ある種の呪いを受けながらも青年は一歩を踏み出した。

 手に握るのは大剣バルムンク。故にそれを持つ彼は《ジークフリート》
数々の冒険と苦難を乗り越えた青年、龍殺しの英雄が立ち向かう相手もまたしかり

「三度、貴様と相見えようとはな」

 巨大な黒竜であった。その躰は山を思わせ、広げられた翼は空を覆い隠す。
その目に邪悪を灯した竜、《ファヴニール》英雄が龍殺しとなった宿敵

「ファヴニール! 邪悪なる竜よ! 俺は此処に居る! ジークフリートは此処に居るぞ!」

 一四世紀のフランスという時代や場所も異なるこの地、この時代にて
竜と英雄は互いの因果に引き寄せられ、《ニーベルンゲンの歌》に新たな伝説が…………

「再び貴様を黄昏へと叩き込む。我が正義、我が信念に誓って!」

            刻まれる。

 最初に動いたのはジークフリートであった。大剣を振りかざして、馬の如く大地を駆ける。
無論、あの時の自身の末路を知るのか。ファヴニールも易々と宿敵とその剣を近づけさせない
突き進む相手に向かって竜が呼び寄せようとしたのは忌まわしき従者、ワイバーン。

 だが竜の目が動揺に揺れた。それは主の元へ姿を現さない。なぜかとすぐに答えを知れる。

「これこそがアスカロンの真実。汝は竜、罪ありき」

「愛を知らない哀しき竜……ここに。星のように」

 従者を二人の男女が抑えてた。それは共に竜退治の偉業を成し遂げた聖人達
守護の聖人の守りはまさしく鉄壁で、鋭利な爪や牙を一身に受けようが傷付かず
慈愛の聖人は岩の如き僕を操り、僕は灼熱を放ち従者を蹴散らしていく。

 だが圧倒的な従者の数に、二人という数は多勢無勢、等々一羽が羽ばたき抜けた。
しかし問題はない、フランスには新たに竜狩りの伝説が生まれているのだから

 「────秘剣」

 ようやく壁を抜け、横槍に青年に牙を向いたワイバーンを切り裂いたのは三条の斬撃
全く同時に放たれた一撃は、蓮華色の着物を着た優男が作り上げた芸術的な武芸であった。

「正直に告白すると。どうして勝てたのか俺にもわからん」

 進む、迫る。龍殺しの英雄は仲間の意志に背中を押されてより速く、より強く。
決して逃さぬと睨み続ける宿敵は、ありえない僅か怯えた様な震えを見せた。
だが、それも一瞬の事であった。自らの動揺に更に悪竜は怒りを加速させた。

 雄叫びと共にファヴニールは大きく口を開けた。咥内に渦巻くのは鮮やかな猛火
怒りに現実を与えたあらゆる物を焼き尽くす灼熱の息吹を吹き出す。憎き、相手へ

「記憶に刻まれているのはただ一つ、あれは僅かな勝ちを拾い上げるような戦い」

 目の前に広がり己を飲み込もうとする業火の波、だがジークフリートは止まらない。
逆より強く地面を蹴り上げ、自ら踊り出るように、自ら飛び込んだ。

「慎重に策せ、大胆に動け、広い範囲で物事を見ろ、深く一点に集中しろ」

「海のように、空のように、光のように、闇のように矛盾する二つの行動をとれ」

 そして息吹の中に姿を消した。悪竜の血鎧の無い青年に無敵性は無い。
世界を焼く火炎は容赦無く、竜の怒りは怨敵の全てを無情にも焼き尽くす、
故にこれで終わり、三度目の因果はファヴニールの勝利で終わる筈だった。

 ではなぜ?

「そうしなければ、あの邪悪なる竜は絶対に倒せない」

 ジークフリートはそのままの姿で現れ、灼熱の死を乗り越えた事を知らせる。
その身に焼かれた痕跡は無く、勢いを失わずに駆ける姿に痛みは無い。
ファヴニールは今度こそ混乱に襲わた様に吠えた。竜は気づく、英雄の後方

 風に揺れる旗に。旗の傍で祈る聖女の姿に。

「我が神はここにありて」

 それは真摯な祈りであった。それは純粋な願いであった。眩い程の愛であった。
それ故に神は願いを受け入れ届ける。聖女の想いは勇者を全ての悪から守る。

「幾重もの壁を突き破り、此処まで辿り着けた」

 そして、様々な想いを背負った龍殺しの英雄は巨大な悪竜に辿り着く。
あらゆる者に求められた。だがそれだけでは無く、今いるのは自身が信じた。
自身を信じてくれた者達の為、正義の味方の様に彼は剣を天へ掲げた。

 ジークフリートが大剣を解放する、封印が外されるが如く黄昏に輝くその剣
黄金の柄に埋められた蒼の宝石が共鳴し、清き力をその刃に纏わせていく。

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る」

 ファヴニールは知っている。その大剣の意味身を以てを知り尽くしている。
この剣は自らを殺した剣。竜を殺す因果を持った龍殺しの一振り。

「撃ち落とす。幻想大剣・天魔─────」

                @@
「…………マシュ君?」

 わっ、ド、ドクター!と、わたしこと《マシュ・キリエライト》はドクターの突然来襲に慌ててこっそり書いていたこの本を閉じました。
体温、心拍数共に上昇を確認。でも無視も出来ませんのでそっとドクターの様子を伺います。あ、先輩も発見……更に両方の上昇を確認。

「えーっと、とりあえず今後の予定でもと思って呼んだのに来なかったから」

「何かあったのかなーって確認をしにきたんだけど……」

 ドクターのニヤけ顔に強制的な行動と思いましたがわたしの力ではドクターがこしあんになってしまうので却下です。
先輩もいるので……とここで先輩の目が「何やってたの?」と訴えているとサーヴァントなわたしは読み取り、説明します。
これはいつか古代ローマの時にドクターから指示を受けて書いていたレポートのようなものです。あ、キョトンとしました。
確かに、ドクターからの指示は無く。個人的な欲求からの行動ですが……え?なぜジークフリートさんがメインですって?
これは私は売れると思った結果です。それと彼の待遇が多少可哀そうになったのもありますが……あ、先輩、読んでみます?
はい、あの時の戦闘ですね。実際に使用したサーヴァントを少し脚色して、本当はわたしも登場させたかったのですが……

「……あ、あっれぇ、二人で仲良く話はじめてしまったよぉ」

「もしかして僕ってお邪魔?ぼっち?……しょうがない、二人とも、落ち着いたら来てね。それまで僕は、こう」

「この寂しさをちょっとうん、慰めてもらいにいってくるかさ」

 あれ、気が付いたらドクターはいなくなってしまいました。で、先輩話の続きはですね…………っと
こうして珍しく平和?な一日は過ぎていくのでした。この後ドクターがこれをばらまくなんてこの時の私は知る由もなく……