電話越しに。
もうすぐ1年が経つ。
まもなく夏休みという頃、すずめは馬村の家に遊びに行っていた。
「おい!すずめ!次はこっちのゲームやるぞ!」
「よーし、次は負けないからねー!」
リビングで、すずめと大地はテレビゲームをしている。
それを見守るように大輝は後ろのソファに座っていた。
やっぱこーなんのか...。
すずめを家に招待したは良いものの、大地にすぐにすずめを取られてしまった。
まぁ、最初から大地が居ない時に呼ばない自分も悪いけど。
「それにしても暑いねぇ。」
すずめが呟いた。
「クーラーもっと強くするか?」
「ううんー。大丈夫だよ。」
遠慮したものの、すずめのシャツにはじんわり汗が滲んでいた。
大輝はそれに気づき、
「...アイス買ってきてやるよ。」
と提案する。
「「えっ!アイスー!!!」」
大地もすずめも目をキラキラさせながら同じ事を言うので、大輝は思わず笑ってしまった。
「何がいい?」
「俺、バニラのやつな!」
「なんでもいいよー。私も一緒に行こうか?」
「えー!すずめはこのゲームやるんだから行くなよ!」
「大地とゲームやってろ。すぐそこのコンビニだから。」
「ほんと?ありがとー。いってらっしゃーい。」
大輝はコンビニに着き、アイスの売り場を見ると、大地の要望の物が売り切れていた。
適当に買おうと思ったものの、何で電話して聞いてくれなかったのか。と怒られたらめんどくさいため、仕方なくすずめの携帯に電話をかけた。
『もしもし?』
「今コンビニなんだけど、大地が言ってたやつ無かったから、他に何がいいか聞いてくんね?」
『りょーかーい。』
『大地ー!バニラの無かったからほかになにがいいかだってー!』
少し声が遠くなり、大地に尋ねているのが聞こえる。
『えー!じゃあ、ソフトクリーム!って伝えて!』
『わかったー。』
電話ごしでも、案外遠くの音まで聞こえるんだな。と、大輝は感心していた。
『もしもし?ソフトクリームだってー。』
「わかった。」
目的の事を聞けたので、通話終了の表示をタップしようとしたが、ピタリと手を止めた。
大輝は、ふとある事を思い出した。
そういえば、すずめと電話をする時先に通話終了を押すのは必ず自分なのである。
付き合い始めてから、何度か電話をする事があったのだが毎回すずめは自分では切らないのだ。
このまま放置しといたらどうなるのだろう。という興味から、そのままにしてみた。
案の定、すずめは電話を切らずに、通話が続行されたままになっている。
『あー!また負けたー!悔しいー!』
『すずめほんとよえーなー!』
ゲームをしている二人の声が聞こえる。
手の中のスマホを見て、クスリ。と大輝は微笑み、
そろそろ通話を切ろうとすると、驚きの質問が聞こえた。
『なーすずめって大輝のどこが好きなの?』
え。大地なんてこと聞いてんだよ...!!
びっくりとして、思わずおい!と声が出そうになったが、
自分でも聞いてみたいと思う意思に負け、言葉をグッと飲み込んだ。
『え』
電話の向こうのすずめも驚いていた。
『きゅ、急にどうしたの大地...?』
『いやだってさー、二人ともイチャイチャしてるのとか全然想像つかねーし、仲良いのかなーと思って。』
『え...仲悪そうに見えてる...?』
先程よりも小さな声ですずめが言った。
『いや、そーいうわけじゃなくて!なんていうか、大輝がすずめのこと大好きのは分かるけどすずめもなのかなってだけ!!』
すずめの声が小さくなったのを聞いて、慌てた様子で大地が弁解をしている。
少しの沈黙が続き、大輝は黙ってそれを聞いていた。
すずめが何も言わないのが不安になってしまった。
『あの...』
やっと切り出したすずめの声を聞き、大輝はこの先何を言われるのか恐ろしくなり、通話を切ってしまおうましたが、
『す、好きだよ...』
今までよりも凄く小さな声で、電話越しでも何とか聞き取れるぐらいの大きさだった。
『馬村といるとドキドキするし、すごく心が温かくなって、私の事いつも心配してくれて、優しい馬村が大好き。』
『お、おうならよかった!』
『これ、馬村に言うのも恥ずかしいだろうけど、家族の人に言う方が恥ずかしい...』
そこまで聞いて、大輝は通話をやっと切り、その場に片手で顔を隠しながら座り込んだ。
鏡を見なくても、自分の顔が真っ赤になっているのが熱のように体全体に伝わった。
ガチャリ。
玄関のドアが開く音が聞こえた。
「あ、おかえりー。」
すずめは玄関に大輝を迎えに行った。
「...大地は?」
「なんかラスボス倒してる途中だよー。あ!アイスありがとうね!溶ける前に向こう持ってかなきゃ。」
大輝の手にあるビニール袋を取ろうと手を伸ばすと、逆に手を掴まれた。
「え!?」
掴まれた手を大輝の方に引き寄せられ、抱きついているような形になってしまった。
「なな、ななななに!?どうしたの!?大地もいるのに...!」
突然のことに驚き、顔を真っ赤にしながら訴えかけるように大輝の胸の中で顔をにあげようとすると、大輝は掴んでいる手と逆の方で、すずめの視界を塞いだ。
「え、な、ななななに!?!?」
大輝の指と指の隙間からわずかに視界が通るが、頭が混乱していて、すずめはわたわたしていた。
すると大輝はゆっくりとすずめに顔を近づけ、耳元で囁いた。
「俺も...。」
「...へ?」
「俺も...お前のこと大好きだから...。ドキドキするし、心が温まる。」
「え、え?な、なんでそれ...!」
言いかけている途中ですずめを引き離し、唇に軽くキスをして、大輝は靴を脱いでスタスタとリビングの方に向かった。
リビングのドアノブに手をかけドアを開けようとすると、ピタリと手を止め、唖然としているすずめの方を見て、
「エスパー。」
と言いながら舌をべー。とだして、中に入ってしまった。
「ど、どうゆうことー!?!?」
すずめは真っ赤になった顔を両手で隠し、その場に座り込んだ。