被害者と加害者
罪を犯したものと、罪を犯されたもの…。
つまり、被害者と加害者、というものは、
一見正反対のように見えるが、実は一直線上にいるものだと思う。
「ジェイド!!」
ひだまりが集まってできたような笑顔で自分を呼ぶ、自身の罪の塊。
最初こそ、自分の過去を、罪を象徴したこの子供が嫌いだった。
傷を抉られ、そこに塩を塗りたくられたような痛み。
言いようのない過去の自分への苛立ち。
それらが自分に一気に押し寄せてきたと感じ、柄にもなく、少しだけ怯えていた。
彼を目にするたび、”恐怖”や”不安”という感じたことのない、それこそ、人間染みた感情を抱いていた。
尊敬し、愛していた己の師を自らの手で亡き者にしてしまったことを、静かに責められているような気さえして―…。
だから、彼に冷たく当たったり、突き放したりした。
極力目に入れないように―…。
その結果、彼もまた、罪を犯してしまった。
罪を犯したことを認めようとしない子供が、過去の自分と重なって…。
彼に辛辣な言葉を浴びせたのだった。
―オマエガ イエル タチバカ…?―
誰かの声が聞こえた。
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髪を切って再び自分の前に現れた彼は、見違えるほどにぐんぐんと変わっていった。
どうせ口だけ、と思っていた自分や彼女に見せ付けるかのように。
優しき緑の導師の見解は、どうやら間違っていなかったようだ。
どうして、彼には見抜けて自分には見抜けなかったのか。
それはきっと、自分自身が、彼をきちんと見ようとしなかったから。
罪の意識にばかり気をとられ、彼の言葉に耳を傾けなかったから。
「…なぁ、ジェイド…」
「なんです?」
「!!あ、あのさっ―」
「あぁ、それはー」
「へー、そうなのか。ありがと、ジェイド!!」
「いえいえ」
おずおずと疑問を投げかける子供に、丁寧に教えてやる親のように答えてやれば、キラキラした瞳でその話を熱心に聞き、話し終われば嬉しそうに笑い、礼を言う。
きっと、髪を切る前だって、そうしてやれば同じような光景に出会えたのだろう。
そんな時間を過ごしているうちに、自分と彼は徐々に距離を縮め、そして、深く、愛し合うようになっていた。
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罪を犯したものと、罪を犯されたもの…。
つまり、被害者と加害者、というものは、
一見正反対のように見えるが、実は一直線上にいるものだと思う。
自分は加害者であり、被害者になった。
彼は被害者であり、加害者になった。
自分の生み出した技術によって生まれた。
自分は加害者。彼は被害者。
彼は世界のために消えた。残った自分に喪失感と虚しさを与え続ける。
自分は被害者。彼は加害者。
正反対であっても、一直線上であっても、
自分たちは決して交わることはない。
それでも、
強く強く望んでしまうのは―…。
「早く、帰ってきてください。 …。」
彼の名前は、空気にきえた。
END