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天国へいこう

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あなたは死にました。そう、目の前の男はまるで天気の話でもするように言った。男の、血のような赤い髪はとても人間のものとは思えなかったので、彼が死神だというのは容易に納得できた。しかし、だからと言って自分が死んだなどという事はすんなりとは信じ難い。はあ?と眉を寄せてすっとんきょうな声を上げた檜佐木に、赤髪の男は笑って、まあ、信じられないのも無理はないっすよね、と言う。その様子じゃあ、何も覚えてないんでしょ? 檜佐木は僅かに首を振る。…いや、名前は覚えている、あと自分が昔一度死んだ事も。それだけですか、俺の事は? 覚えてねえよ、悪いな。赤髪の男はいいんですよと言って人懐っこい笑顔を見せた。忘れたいと願えば忘れられる、ここはそういうところなんですよ、天国なんですから。檜佐木はますます顔をしかめた。死後の世界でもう一度死んだら、ただの霊子の塵になるんじゃねえのかよ、天国だなんて馬鹿馬鹿しい。すると赤髪は苦笑して、ふと顔を背けた。何もないまっ白な天井を見つめて、一呼吸置いてからぽそりと言葉を漏らす。ねえ檜佐木さん、俺はアンタが記憶を無くしてくれて正直ほっとしてるんですよ、色々背負いすぎているアンタを見るのはもうごめんなんだ。独り言のように呟く赤髪の横顔はやけに大人びて見えた。何かを思い巡らせているようなその横顔に、檜佐木は静かに問う。なあ、お前は俺の事をよく知ってんのか。赤髪は視線を外したまま、よく、っていうほどでもありませんけどね、俺にとってアンタは良い先輩で、可愛い恋人だっただけです、などと言う。何言ってんだお前。檜佐木が笑い飛ばすのを気にも留めず、赤髪は話を続ける。あなたの優しすぎるところが好きだったんです、檜佐木さんは俺の事なんてただの後輩としか思っていなかったかもしれませんが、それでも俺の前で泣いてくれたのが嬉しかった、少しでも役に立てたのが嬉しかったんです、抱いて、慰めてあげる事しかできなかったけれど。……俺がお前に、だって? ええ、俺は、とにかくアンタを解放してやりたかったんだ、だから。赤髪が顔を上げた。視線が交わる。檜佐木は思わず息を飲んで、続く言葉を待った。赤髪は僅かに微笑して、ゆっくりと口を開く。だから、俺がアンタを殺してあげたんじゃないスか、そんな事も忘れたんですか? 檜佐気は目を見開いた。頭が鈍く痛みだす。…覚えてねえ、お前が俺を殺したってのか? そうです、その話、聞きたいですか? 死んでいるはずなのに、口の中が渇ききってうまく声も出せない。檜佐木はかろうじて目線だけで肯定を促す。赤髪は目を細めて、どこか遠くを見るようにして語りだした。色々あって、疲れ果てたんでしょうね、檜佐木さんがあんまり殺してくれって言うものだから、俺もそんな檜佐木さん見てるの辛くて、アンタを殺して俺も自殺したんです、でもアンタは死ななかった。赤髪が目を伏せる。アンタはいつもそうだ、いつだって死ねない、俺が死んだのも自分のせいだと思い込んで、挙句の果てに暴れだしたんで刑軍により処理されて、アンタはようやく死ねたという訳です、お帰りなさい、檜佐木さん。赤髪が歩み寄り、身動きの取れずにいる檜佐木の体を強く抱きしめた。俺がアンタの天国を守りますから、そう耳元で呟く声はかすかに震えているようだった。


 「……阿散井。縁起でもない話はやめろ」
 「すんません、だって檜佐木さんがあんまり死にたそうな顔してたんで、」

作品名:天国へいこう 作家名:泉流