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Fragile Lady

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「アダム司令、ネタは上がってんですぜ」
 見た目ヒューマノイドのようだが、耳が神話のエルフのように尖った、小柄な男が昼の休憩中に不意に切り出してきた。
「なんのことかね」
 アダム・マルコビッチはこのクリーツという名の部下の素行に少々閉口していた。今もアダムがくつろいでプライベートの読書にいそしんでいるときに、この男はわざわざ話をしてくる。
「まーたまた! しらばっくれて。サムスのことですよ!」
 その名を出され、コンピュータ端末を進める手をアダムは止めてしまう。クリーツは笑っていた。
「こないだの昼もサムスといっしょにランチしてたのに、今日はおひとりなんですねえ」
「……貴様は何が言いたい?」
「だから、サムスとはどこまでの仲かなーなんて、オレとしては気になってたりするわけですよ」
 いやらしくクリーツは口角を上げる。この態度がアダムを悩ませる種であった。
「勤務中に貴様はそういう下世話なことばかり考えているのか? 余計なことを気にする前に、自らの態度を省みたほうがいいと私は思うがね」
「おんやあ、話をすり替えてやしませんか? お得意の!」
「サムスには休暇を取らせてある。……これで満足だろう」
「休暇? オレはここに来てこのかた無欠勤だぜ! サムスばっかひいきして、男には鬼みてえに厳しいくせに……」
「精密機器は丁寧に取り扱うだろう」
「精密ぅ!? 男のオレよりよっぽど強えサムスが精密! 司令、ちょっと脳の検査したほうがいいんじゃないすか?」
「失敬な……」
 クリーツの不躾な物言いに辟易しつつ、アダムはサムスのその姿を思い浮かべる。
 たしかに肉体的な面でいえば、鳥人族の遺伝子を持つサムスは並みの兵士やスペースパイレーツが束になってかかろうともものともしない。
 しかし、まだ若い彼女はその力と精神的な面でのバランスが取れていない。ましてや、スペースパイレーツに全てを奪われた過去を持っているのだ。激昂しやすい性格はそこから来ているのだろう。それだけに、とても脆い。脆さを隠そうとして、あんな態度を取る。
 おびえた子どものまま、力を備えてしまったのだ。アダムはそんなサムスに対し、ただの部下以上の感情を抱きつつあることを自覚していた。
 そうだ。クリーツの言う通り彼女に思い入れすぎている。――おなじ愚を、繰り返すつもりか? アダム・マルコビッチ……。
 かつて、アダムには妻がいた。昔馴染みの女性だったが、一般人だった。そのため多忙なアダムとは反りが合わず、双方同意の上で別れたのだった。それ以来、自分の職業柄、結婚はできないと考えている。女性を愛してはならないと思っている。
 だというのに、あのサムス・アランに惹かれてしまった。それを彼女に告げてはならない。どんなに想い、焦がれようと、自分たちは「司令官と部下」であり続けなければならない。サムスに休暇を取らせたのは、近づきすぎた互いの距離について考えるためでもあった。
 こんな保守的な考えを持っているなど、「鬼のマルコビッチ司令」の部下は知る由もないだろう。愛した女性に、「愛している」と告げることもできぬ臆病な男だと、誰が想像しただろうか。
 ――脆いのは、俺のほうかも知れない、サムス……。
(了)
作品名:Fragile Lady 作家名: