年の初めに
いや、それが何で出来ているかは、アムロは知っているし、その名称と利用目的をシャアは知識として知ってはいた。
だが、目の前にある物に、その知り得ている情報が結びつかないのだ。
「凄いでしょ? これ」
「・・・ええ・・・・・まぁ・・・」
「いや・・・凄いの前に、これを持ち込んだ理由を聞かせて貰えないかな、ノア夫人」
ニコニコと微笑むミライの表情に悪意はなく、純粋に素晴らしいものを持ち込んだ!という達成感すら感じさせる。
「これ? 鏡餅に決まってるじゃない」
「うん・・・鏡餅だって事は僕も知ってる。・・・でも・・・」
「この、色々と付いている・・・この品々は?」
「それに・・・いろ、が」
そう。二人の前にどっどん!と鎮座している物は、紅白二段の鏡餅なのだ。
一番上の柑橘系(橙と言う)は知っているものの
(あの下に、横一直線に串刺しにされてぶら下がる干からびたミイラのような物は??)
(ミイラ言うなよっ! 黒く垂れさがる髪のようなの・・・。まさか、ほんものの髪の毛ってことは・・・ないよな)
(それはないだろう、アムロ。真正面の赤いのは、エビ・・・とか言う生物だったと記憶しているのだが・・・)
二人は小声で互いに感じてる事をこそこそと話し合っていた。すると、鏡餅を持ち込んだミライが、滔々と解説を始めた。
「お餅が紅白なのはお目出たいからじゃないの。橙は代々続きますようにって意味だし、エビは腰が曲がっても元気に居られます様にって祈りだし、干し柿は、左右に二個ずつと間に六つでいつもニコニコ仲睦まじくって語呂合わせ。昆布は喜ぶって言葉に通じるって」
「これっ、昆布?! 髪の毛じゃ無く?!」
「ホシガキとは何なのかね」
ミライの説明のこしを折る形となってしまったのは致し方ないが、それくらいに驚いた二人が、ほぼ同時に叫ぶように声を張り上げた。その声に解説していたミライは、幾度も瞬きを繰り返して二人を交互に見やる。
「やだ。アムロもシャアもご存じなかったの?」
ミライの言葉に、アムロはコクコクとうなずき、シャアは顎に片手を置き思案する表情となった。それを見て、ミライは自分の意図していた事柄を説明するべきだと感じた。
「ネオ・ジオンと地球が友好関係を構築出来たんですもの。それが長く続くことが人類の幸福に繋がると、私は感じているの。だから、新しい年の初めに、旧世紀のニホンのしきたりを再現したのよ」
迷惑だったかしら? との言葉に、アムロは今度は首を千切れんばかりに左右に振って軽く目まいを起こしてしまい、シャアに支えられる。それでもその表情はあふれんばかりの喜びを湛えていた。
キラキラと輝く瞳が、シャアを見上げて緩やかに細められる。
その顔に笑みを返すと、シャアはミライに視線を移した。
「ノア夫人のお心遣いに感謝します。こうしてスペースノイドとアースノイドが手を取り合うことが、恒久的な平和と繁栄に繋がるのだと、私も確信している。いつまでも共に」
そう言うと、シャアは右手を差し出し握手を求め、ミライもその手に己の右手を差し出した。
握られた両手の上に、ほっそりとした手のひらが重ねられる。
ネオ・ジオン総帥官邸のリビングに幸せのオーラが満ち溢れたひと時だった。