月刊アメフト・インタビュー8をめぐるアレコレ
高見と桜庭
「高見さん、これこれ」
桜庭が楽しそうに月刊アメフトの1ページを開いて高見に掲げてみせた。
トレーニングルームでは、部員たちがそれぞれマシンに向かっている。
「なに? ああ、こないだ熊袋さんの娘さんがインタビューしていったヤツだね」
スポーツドリンクを飲みながら高見は応えた。
「阿含が珍しくインタビューに答えてるんですよ。リコちゃん頑張りましたねぇ」
桜庭は感心した様子でパラパラとページをめくる。
「あ、これ面白い。自分は誰に似てると思いますか、っての」
「あ〜……。確か、進は『阿含』って答えたんだよね」
体脂肪や筋肉のつき方が似てるといわれても、阿含も困るだろう。
「で、その阿含は何て?」
「『一休』だそうです。敢えて言えば、だそうですけど」
と、不意に桜庭が、バッ、と誌面を高見から隠すようにする。
「? 何だ? 桜庭」
不思議がる高見に、桜庭はニヤニヤと笑いかける。
「高見さんに似てる、って答えてる選手が一人居ますよ。誰だと思います?」
「ああ。そりゃ……」
高見は苦笑を浮かべる。
「ヒル魔だろ?」
桜庭が、えー、と口を開ける。
「どうして分かったんです? あ、それとも、もうこの記事読んだとか?」
いやいや、と高見は首を横に振る。
「読んではいなかったけど、そうだろうな、って」
「でも高見さん、腹黒いとか言われてますよ」
桜庭が記事を指差しながら言う。
高見は嬉しそうに「ふぅん」と呟いただけ。
「……。高見さんて……腹黒いんですか?」
高見はさわやかな笑みを浮かべて立ち上がると、
「さ、トレーニングに戻ろうか、桜庭」とはぐらかした。
誠実そうで、努力家で、信頼できる先輩にしか見えない。
だが、「あの」ヒル魔が腹黒と称するからには、そういう部分も存在するのだろう。
もしかすると、見た目と中身が一致しているヒル魔のほうが、まだマシだったりして。
マシンに向かいながら、桜庭はひとり、ひきつった笑みを浮かべた。
了
作品名:月刊アメフト・インタビュー8をめぐるアレコレ 作家名:相原 亮