プレゼント
2月10日の朝。
コーヒーの沸き立つ音が聞こえる。
「ん・・・あれ?大輝?」
ベッドの横を見ると愛しい人の姿はなく、
少しベッドの上が冷たくなっていた。
すずめはパジャマの上からカーディガンをはおり、
リビングへと向かった。
「おはよう。大輝?朝ごはん作ってる・・・?」
「はよ。具合悪ぃんだろ?匂いは平気か?寝てろよ。」
第1子を妊娠中のすずめは、
前日の仕事中具合が悪くなって早退してきた。
今日は残業なしで帰るぞと気合い入れすぎて
無理がたたったらしい。
「ん…ごめんね。大輝、誕生日なのに何もできなくて。」
「誕生日で喜ぶほどガキじゃねえし。」
「私が祝いたかったんだよ。」
「///気持ちだけでいいから。」
大輝はすずめが早退したと聞いて気が気でなかったが、
その原因が自分の誕生日を祝うためがんばったから、
と、すずめの職場の同僚に聞いて、
嬉しくもあった。
「だいたいオマエは気合入れるといつも空回りすんだろ。」
「・・・面目ない。」
「今日休みとったから。」
「えっ!」
「なんだよ、嫌かよ。ほっとけねえだろ。
腹の子になんかあったらどうすんだよ。」
「や…自分が誕生日プレゼントもらったみたいだなって。」
青白い顔にニッコリ笑顔が戻った。
「~~~////」
か、かわいい。
ギュッと抱きしめたい。
めちゃめちゃにキスしたい。
大輝はそういう衝動にかられたが、
具合が悪くて休んでるのだからと
かろうじて衝動を抑えた。
「いいから寝てろ。」
ニヤけそうな顔を見せまいとして
再びキッチンの方を向き、
大輝は玉子を手に取って朝食の準備を再開した。
ふと、ひょい、と横から顔をのぞき込まれる。
「わ、なんだよ。」
「大輝が顔真っ赤なの、ひさしぶりに見た。」
「!///」
さっと手の甲で顔を隠すが
耳まで赤くて隠れていない。
「ふふ。」
「何がおかしーんだよ。」
大輝はちょっとムッとした顔をした。
「大輝だなぁって。」
「は?意味わかんねえんだけど。」
「大スキってことだよ。」
大輝は再び卵を置いて、
バッとすずめを抱きしめた。
「わっ!」
「せっかく休ませてやろうと思ったのに…
オマエが悪ぃんだからな。」
「石けんの匂い…」
「え?」
「ううん。ここが一番休まるよ。」
「だっから、オマエッ////」
たまらず大輝はすずめの顔を手で挟み込み、
深くキスをした。
舌でめちゃめちゃに犯したい気持ちを
かろうじて抑えたが、
キスをして目を合わせ、またキスをして
おデコをつけ目をつぶった。
「もう十分プレゼントもらってるよ。」
大輝はしみじみと言った。
「えっ?…なんにもあげてないよ?」
「オレはオマエが横にいれば何にも要らねんだよ。」
すずめは大輝の言葉に頬を染めた。
「じゃあわたし、一生プレゼント用意しなくてもいいねぇ。」
クスクスと笑うすずめを見て、
大輝は再び、今度はゆっくりとキスをした。
リビングのガラス棚には、
昔すずめがプレゼントしたヘッドホンが
飾るように置かれている。
もうさすがに買い替えになって、
社会人になった今は
ほとんどヘッドホンをすることもなくなったが、
2人の気持ちは変わらぬまま、
むしろ深く、心地よさは増して…
「誕生日おめでとう、大輝。」
すずめはギュ、と大輝の背中に手を回し
軽く抱きしめた。
「サンキュー」
大輝はすずめの頭に軽くキスをした。
ふわっと温かい気持ちが2人を包んだ。