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デビュー

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「ついにぃぃぃ~」

スマホの箱を両手で掲げ、
すずめは興奮していた。

「しばらくイライラすんだろうな。」

「え、なんで?」

「や、別に。」

お互い別々に進学し、バイトを始めたすずめは、
とうとうスマホを買った。

周りがスマホを持つ中で
1人ずっとガラケーだったので、
ゆゆかからも早く切り替えろと
言われ続けていた。

「ふわぁぁ、カッコイイ!」

箱から出して電源を入れ、
ピカピカの画面を
指でスッと動かしてみる。

「ちょっとメール!馬村にメールしていい?」

「いいけど、その前にいろいろ設定しねえと
 できねんじゃね。」

「えっ、あっ。ん?ID?って何?」

携帯会社からもらったスターターガイドを見て
すずめはスマホを手に、あーでもない
こーでもないと四苦八苦している。

その間、カフェで向かいの席に座ってる馬村は
画面からちっとも目を離さないすずめをみて
つまらなくなってきた。

「おい。」

「おい、こら。」

「こっちむけ、バカ。」


「え?あっ、ごめん。馬村。何?」


「…なんでもねえ。」


「?」

首をかしげながら
すずめの目線はスマホに戻る。

そういうやりとりを何度かしたが、
すずめは夢中で止める気配がない。

結局馬村はずっと向かいで黙って
すずめの眉間にシワがよるのを
コーヒーを飲みながら見ていた。

そういう時間も馬村は
別に嫌いではなかったが、
正直面白くなかった。

そうこうしてるうちに

キンカン!

馬村のスマホが鳴った。


『初LINE( *´艸`)』

と、すずめからLINEが来ていた。

すずめの席からみた馬村の写真と共に。

「なんだこれ。」

「え。わたしの席から見た馬村。」

「…自分の写真送られても。」

「ね、馬村も自分の席から見えるとこ
写真撮って送ってみてよ。」

「はぁ?なんにも面白いもんねえよ。」

「いいからいいから。」

カシャ。

キンカン!

送られてきた写真は、
馬村の席から見えるカフェ内の風景。

「こんなの送ってどうすんだよ。」

「馬村から見える景色はどんなかなぁとか、
 いつもどんなふうに何見てんのかなぁって
 わかるじゃん。」

すずめは馬村が送った画像を見て
頬を染めて嬉しそうだった。

「///……そうかよ。」

キンカン!

もう1通、馬村から写真がきた。

「なにこれ?」

「オマエの眉間。」

写真は、すずめの眉間のドアップだった。

「は?こんなのいつ撮ったの?」

「オマエがスマホいじって夢中になってた時。
 暇だからずっと見てた。シワ深ぇなーとか。」

「っ!んだよ~~……ごめん。」

「触りたいのはわかるけど、
 スマホはもう家に帰ってからにしろよ。」

「うん。」

カフェを出て、しばらく歩いて家に帰った。


家に着いて、馬村が自分の部屋にあがろうとすると
またスマホがキンカン!と鳴った。

ガタタタッ

馬村は思わず階段から落ちそうになった。

送られてきた画像は
諭吉のドアップだった。

「だからなんでこれ?」

馬村はスマホの画面を見てしばらく呆れ顔だったが、
つい、ふっと笑ってしまった。

「あ、大輝が思い出し笑いしてる。やーらしー。」

大地が、少しゆるんだ顔の馬村を見て
冷やかした。

ゴン!

「いってえ!」

無言で大地の頭にゲンコツをおろし、
馬村は自分の部屋へあがった。

そして自分の目から見た部屋の写真を
すずめに送り返し、

『バーカ』

と返信した。

『馬村の部屋だ↑』

「ふ…だからなんだよって。」

そう言いながらもくだらないやりとりが
距離を近く感じさせる。

進路先が違ってなかなか会えなくなったが
これなら少しだけ我慢できそう…と
馬村はさっきまで思っていたが、

「やべえ。もう会いたくなってる。」

スマホを握りしめて
少しため息をついた。

ちゃんと直に目を合わせて声を聞きたい。

結局想いは募るばかりだ。

春はいろいろ。
作品名:デビュー 作家名:りんりん