二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Blade in a Blaze

INDEX|1ページ/1ページ|

 
Blade in a Blaze

***

柄の左右に宝石を嵌めこんだ、平たい刃の諸刃の剣。
女性の手にもなじみやすい細身の柄。
刃の中央にはMagyar Királyságの文字。

その剣の名は、ハンガリー。

***

その剣は手の届く場所にあった。
黒い影が刃物を振りかざす。

――――殺される。

咄嗟にその剣を掴んだのは仕方ない。
とにかく私は、コンマ数秒以内に私の心臓を貫くであろうその刃物をはじき返す、硬いものが必要だった。



塾帰りの公園。茂みの合間。
近道のツケは実に高くついた。
街灯の灯りで何か光るものを見つけて、最初は猫だと思ったのだ。
左右の目が緑と青で、顔の真ん中だけ白い猫がこっちを見ているのだと思って、茂みを覗きこんだ。

「あれ?」
拍子抜けした声が出る。
それはなんだか古風な形の剣だった。
本物かどうかは分からないけれど、オーソドックスな平たい刃の剣。
演劇の小道具か何かを、誰かが置き忘れて行ったのだろうか。
左右の石は綺麗だと思うけど、剣なんか警察に届けに行くのも面倒だ。
せっかくオッドアイの猫を撫でようと思ったのにがっかりして立ち上がった膝先を、何か鋭いものがかすめた。

最初は、何か硬いものがぶつかった、と思った。
小脇に抱えていた通学バッグからなぜかポーチやペンケースがバラバラ落ちてきた。
その次に鋭い痛みが来て、膝を見た。
ぱっくり肉が割れて血が噴き出しているのを、一瞬他人事だと思った。
きっとよくできた特殊メイクとか。
ソックスに染みこんで行く血と、しびれたように身体の芯に響く痛みに、初めはゆっくり、それから急激にパニックがこみ上げてきた。
なにこれ、石でもぶつかったの? 荷物拾わなくちゃ。拾って病院行かなくちゃ。携帯も落ちた。あと、どうしたら。何をしたら。何をすれば。

人がいる。

何か持っている。

そいつが振り返った。

黒い。黒ずくめだ。
真っ黒に見えるのは貧血で段々視界が暗くなってきているせい?
それとも逆光のせい?

顔さえ黒く塗りつぶされたその人影が腕を軽く持ち上げる。
包丁よりずっと長い大きいなにか刃物を握っている。

「ひぁ、あ…」

喉に声が貼りついたように情けない悲鳴が漏れた。

背中を向けて走り出そうとして、膝ががくんと地面に落ちる。
痛い。焼けつくような痛みなんて、17年の人生で初めて知った。
頭までガンガン響くみたいに痛い。
子供の頃に遊んで負った怪我とは全然違う、本当に命の危機なのに足が動かせないレベルの痛み。

前につんのめって地面に倒れた。
ひゅんっ、と風を切る音がした。
髪に何か当たった気がする。
つんのめったおかげで、刃物が頭上を通り過ぎたのだ。

地面に両手をついて、半分転がる。
街灯に背後から照らされながら相手は今度はまっすぐ刃物を振り上げた。

――――殺される。

なにか硬いもの。
何か何か何か。
なんでもいい、まっすぐ振り下ろされるであろうあの刃物を受け止められるもの。

浮足立つ思考で周囲を落ちつかなく見まわした瞬間、きらりと光るものがあった。
さっきの猫の瞳。
同じ場所にある。
猫じゃない。
緑と青の石の嵌まった――――剣だ。

本物かどうかなんてどうでもいい。素手よりマシなのは確か。
手を伸ばした。焦りすぎて柄の真ん中までしか指が届かない。
指をうごめかして引き寄せる。
握る。
影が刃物を振り下ろす気配。
間に合わない。

振り返りながら頭をかばうように剣を引き上げる。

瞬間、柄が指を吸いつけたみたいに手になじんだ。
振り下ろされる刃の軌道を遮って、剣を握った手を振る。
この軌道を自分の身体から反らせればいい。
力で押し返すのではなくて。ほんの少し横へ反らせれば。この勢いなら軌道を修正する余地はない。たぶん。

――――ガキィンっ

澄んだ金属音がして、刃物が弾かれる。
私を切り下げる勢いをそのままに地面に深々と突き立ったそれもまた、西洋の剣だった。

「はぁっ、…はぁ、は…」

痛みさえ一瞬遠のいた。
影の男…体格的におそらくは男だろう…は、突き刺さった剣を無造作に引き抜く。
わずかに稼げた時間で私ができたのは、今助けられた剣を両手で握って、相手に向けて構えることだけだった。

相手は私が立ち上がるまでにもう一瞬時間が必要なのが分かっているはずだった。
私にだって、膝からどくん、どくんと脈拍に合わせて血が出ているのが分かる。
だから、男がもう一歩間合いを詰めたのも不思議はなかった。

タイミングを合わせて縦か横に剣を振る、しかない。
横でも縦でも、私が反応しきれなくなったら殺される。
でも、横か縦か、読みさえ当たっていたら死なないで済むかもしれない。
手の中に握った一振りの剣が、私の勇気だった。

私こと、エリザベータ・ヘーデルヴァーリはこうして、「ハンガリー」を手にした。
作品名:Blade in a Blaze 作家名:佐野田鳴海