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escape

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「トムさん、」
「いいって。あれはさ、相手にも非があんだろ?」

深夜の裏路地。
予定よりも随分遅れた最後の取り立ても漸く終わってそろそろ解散するかという
時、静雄は今日何度目かの謝罪を口にしようとした。

例の情報屋が絡むと静雄の器物損壊率が格段に跳ね上がるのはいつもの事なのだ
が。

「静雄メシ行くか、メシ!もう腹減ってぶっ倒れそうだわ俺」
「トムさん…」

静雄はいつもなら飯に誘うとアッサリ乗って来るのだが、今日のは相当堪えたら
しい。

「ホラ、いくべ?」
言って笑うと、ピシリと絆創膏が貼ってある頬が引きつった。
頬の筋肉を動かすたびに反射的に傷が疼くのは仕方ないのだが
少々煩わしいかもしれない。

「本当に、すみませんでした」

事の起こりは今日の昼間、たまたま例の情報屋と出くわしたのが始まりだった。

静雄が振り回した標識が周辺の店のガラスを割り、うっかりしていて一瞬逃げ遅
れた俺は、その破片の一部で頬を切った。
傷自体は浅く、絆創膏を貼る程度で全く大した事は無いのだが、静雄はそれから
沈みっ放しでなかなか浮上して来ない。

おそらく、店に対する謝罪や社長への報告等で仕事が遅れたという事にも負い目
を感じているんだろう。
この後輩は世間には機械人形などという物騒な呼ばれ方をされてはいるが、決し
て心無い存在でも化け物でもない。
俺が見る限りでは寧ろ、真面目で正義感が強く人間らしい。

今、目の前で沈んだ表情で俯いている男は、とても池袋最強には見えないが、俺
は、こいつのこういう所がとても可愛いと思う。

「静雄」

自分の目線より高い位置にある静雄の頭をわしゃわしゃと撫でた。
静雄は少し驚いた表情で俺を見て、また伏見がちにスミマセン、と呟いた。

「俺、やっぱり」
「辞める、とか言うなよ。お前が居なきゃ俺はマジで大変なんだからな」
「…………っ!」
「ほら、何食いたいか言ってみ?」


静雄が俺の肩に顔を埋めてきた。
やっぱ大分弱ってんなあ。

「よーしよし、大丈夫だぞ静雄」

別にしがみついて泣いてもいいのに、また変に気とか使ってんだろうな。
こういうとこも可愛いけどさ、先輩としてはもっと素直に甘えられたいなんて願
望も少なからずあるわけで。

「仕方ねえなあ」

多少恥ずかしいけど、まあ深夜の裏路地ってロケーションだし。
俺は変な理由で照れを押し殺して静雄の背中にそっと腕を回した。

「寿司」
「ん?」
「…おれ、寿司が食いたいです」
「んじゃ露西亜寿司行くべ。奢りだからいっぱい食えよー」
「トムさん」
「ん」
「ありがとうございます」

俺の肩から顔を離した静雄はサングラスを素早く装着していた。
ちょっと顔見たかったから残念だけどまぁいいか。
やっぱり静雄はこうじゃないとな。


俺たちは閉店間際の露西亜寿司に向かった。


この数分後、ものすごいペースで酔っ払った静雄が
サイモンと取っ組み合いを始め、俺が再び巻きぞえを食う羽目になるのだが
これはまた別の話だ。


作品名:escape 作家名:甘党