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溶けるシアン、透ける青、笑う魚

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死んだ魚の目とはよく言ったものヨ、とあきあきした声が新八の耳に届いた。
神楽は階段下の、つまりお登瀬の店の前であーだこーだを繰り返している家主と雇い主を見て酢昆布をくちゃくちゃ噛んだ。新八はその言われた雇い主の眼を見た。確かに生気はない。というよりそこにあるはずの表情がない。
なんだっけか、目は何かを語るんだったよなぁ、とぼんやり考えながら、それ誰が言ったの、と何とはなしに口にした。神楽は酢昆布をきゅーっと吸った後、新八を振り返った。手摺りに背を預けて、トッシー、と短く答える。
あぁあの人。新八はため息混じりに神楽と同じように手摺りに背を預けて首を上へと逸らした。何故か妙に肩がこっている気がしたのだ。屋根をまたいで見えた空は、実に青々しかった。

「新八、魚は何色ヨ?」
「んー、灰色?」
「馬鹿アルなだからお前はいつまで経っても新八なんだ」
「なにそれ、ていうか僕は僕でいいよいつまで経っても」
「開き直るなんてつまらないネ! ツッこめよそれが新八だろーがコンチクショー」
「あれそれって、僕のすべてって突っ込みなワケ?」

ていうか話の方向性変わってきたよ、というと神楽は二つ目の酢昆布を取り出して、その場所に座り込んだ。魚は青色ヨ、そうぼそぼそつぶやいた。

「あいつらは海の色を吸い取って生きてきたから青色に染まって、水中から見上げても空の色は青色で。それで、いつか青に溶けるんだヨ」
「・・・うん」
「どうせ帰る場所はひとつネ。成れの果てなんてみーんな一緒。生まれるにしても水の中からアル」
「――― そだね」
「・・・・それだけネ」

神楽はそれっきり口を閉じた。
不完全燃焼な会話の続きを物語っていたのは悔しそうな悲しそうな、怒っているような(もしくは憎しみのこもった)神楽の表情で、新八は小さくため息をついた。
いつか、死んでしまうことを考えたのだろう。それとも離れてしまう、とか。
だけどそれはあまりにも遠くない、いつかの日の話なのだろう。新八はゆるりと思考する。
神楽が離れていくにしても、銀時が二人と一匹を必要としなくなるのも、遠くない日の話だ。いつかくる、未来。いつかきたる、さよなら。
それでも約束は出来ないだろう。今、未来を約束しない限り、それも不安定で未確定で“いつか”の話になるだけで。

(ああ、だけど、)

屋根の向こう側に見えた青を見つめて、反った体勢のままで首が痛いのに、それを気にすることもなく、新八は瞬きをひとつするとそのまま瞼を閉じた。
痛いほどのすんだ青をその瞳に閉じ込めて。

(確実に、おいてかれるのは、僕、だ)



溶けるシアン、透ける青、笑う魚 





お題配布元:不在証明さま