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みらいのはなし

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ランランランランランランラン、ランランランアウェーイ イエー!不吉で密室三角蔵から脱出し忌まわしい奈津川家からひとり自由になった俺は四郎の想像通りテレビの温泉特集で観た箱根へ行き温泉で丸雄に殴られた傷を癒しついでに旅館の若女将で心の傷も癒し三郎の想像通りドイツへ飛びドイツの実家を襲撃…なんてことは自由になった今する必要もなく街を観光し歴史を学びビアホールで地ビールを浴びていたときに出会った目が大きくてキュートなマリーアのおうちにお泊り→同棲→妊娠発覚→できちゃった結婚、で奈津川の名を完全に捨てる。お腹の中の子は女の子で俺とマリーアに似て頭も顔も良いに違いないし俺も職を見つけ真面目に働き将来は安泰幸せ結婚生活ラララ…




 というのは嘘で俺が三郎四郎が考えつくようなことをするはずがない。俺はまだ三角蔵の中にいて誰にも予想することが出来ないような復讐を考えている。如何にして丸雄の血を流すかを考えている。そして大便臭いこの三角蔵から脱出するタイミングを見計らっている。痛さと寒さのおかげで俺の頭は最高に冴えまくり地獄の妄想は膨らむばかりでムフフ口から笑いが漏れる。




 と笑っている場合じゃなくて実は俺は今まさに丸雄に殴られているところで痛さを紛らわすためにそんなのんきなことを考えているのだ。三郎と四郎の呆然とした顔。殺すぞ。あーこれから俺はまたあの三角蔵に放りこまれるんだろうなー《別荘》とか言ってるけどあそこマジこえーんだよなー初めて《別荘》に入れられてからもう8年くらいになるけどまだ慣れないんだよねていうかあんなとこに慣れたら終わりだよね。あっ怖くないって自己暗示かけたらいいんやないかーだって俺暴力大魔王の丸雄の暴力でさえもぐもぐごっくんと飲み込んじゃったくらいだからネ。大丸の霊なんて怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない狼なんか怖くない…




 って何考えてんだ俺。そんなん効くわけねえげや。いつも通り学校を出て降りかかってくるどこかの誰かさんたちをなぎ払いながら家に帰って部屋で寝ていたら風呂から出てきた丸雄の声が聞こえて「二郎呼んでこいや」でけー声呼ばれなくても聞こえるっつうの。三郎の面倒くさそうな足音が階段をあがってくる。今までのパターンからいって俺はまた丸雄を挑発し丸雄に殴られ夕食をぶち壊し別荘に泊まることになる。あーあごめんね三郎四郎二人が石狩鍋が大好きだってお兄ちゃんよーく知ってるんだけどね。こればっかりはもうどうしようもないよね。次はどこから血を流しどこの骨を折ることになるのだろうか。




 というのも嘘で俺はまだ10才で真夜中。俺は別荘から出してくれてそのまま布団に入れてくれたおふくろの寝室からそっと抜け出して丸雄の部屋に忍び込みぐーすか寝ている丸雄の枕もとに立っている。布団が捲れて脛の傷と脇腹の傷が見える。俺は丸雄の布団にもぐり込んで丸雄の大きくて暖かい体に寄り添って丸雄の背中の30センチくらいある傷に耳を当てて丸雄のいびきと心臓の音を聞きながら眠りたいという衝動を抑えてあるのかわからない明日明後日来年三年後五年後十年後のことを思っている。
作品名:みらいのはなし 作家名:九頭竜川