みらいのはなし
というのは嘘で俺が三郎四郎が考えつくようなことをするはずがない。俺はまだ三角蔵の中にいて誰にも予想することが出来ないような復讐を考えている。如何にして丸雄の血を流すかを考えている。そして大便臭いこの三角蔵から脱出するタイミングを見計らっている。痛さと寒さのおかげで俺の頭は最高に冴えまくり地獄の妄想は膨らむばかりでムフフ口から笑いが漏れる。
と笑っている場合じゃなくて実は俺は今まさに丸雄に殴られているところで痛さを紛らわすためにそんなのんきなことを考えているのだ。三郎と四郎の呆然とした顔。殺すぞ。あーこれから俺はまたあの三角蔵に放りこまれるんだろうなー《別荘》とか言ってるけどあそこマジこえーんだよなー初めて《別荘》に入れられてからもう8年くらいになるけどまだ慣れないんだよねていうかあんなとこに慣れたら終わりだよね。あっ怖くないって自己暗示かけたらいいんやないかーだって俺暴力大魔王の丸雄の暴力でさえもぐもぐごっくんと飲み込んじゃったくらいだからネ。大丸の霊なんて怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない狼なんか怖くない…
って何考えてんだ俺。そんなん効くわけねえげや。いつも通り学校を出て降りかかってくるどこかの誰かさんたちをなぎ払いながら家に帰って部屋で寝ていたら風呂から出てきた丸雄の声が聞こえて「二郎呼んでこいや」でけー声呼ばれなくても聞こえるっつうの。三郎の面倒くさそうな足音が階段をあがってくる。今までのパターンからいって俺はまた丸雄を挑発し丸雄に殴られ夕食をぶち壊し別荘に泊まることになる。あーあごめんね三郎四郎二人が石狩鍋が大好きだってお兄ちゃんよーく知ってるんだけどね。こればっかりはもうどうしようもないよね。次はどこから血を流しどこの骨を折ることになるのだろうか。
というのも嘘で俺はまだ10才で真夜中。俺は別荘から出してくれてそのまま布団に入れてくれたおふくろの寝室からそっと抜け出して丸雄の部屋に忍び込みぐーすか寝ている丸雄の枕もとに立っている。布団が捲れて脛の傷と脇腹の傷が見える。俺は丸雄の布団にもぐり込んで丸雄の大きくて暖かい体に寄り添って丸雄の背中の30センチくらいある傷に耳を当てて丸雄のいびきと心臓の音を聞きながら眠りたいという衝動を抑えてあるのかわからない明日明後日来年三年後五年後十年後のことを思っている。