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ロマンチストの長き不在

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ぱたん、という障子の閉まる音で小平太は目を覚ました。部屋の中はまだ真っ暗で、月の光だけが窓の格子から漏れている。眠たい目を擦りながら身体を起こすと、いつも隣で寝息を立てていたはずの同室人の姿がそこにはなく、ただ綺麗に畳まれた布団だけが残っていた。
「長次……?」
 辺りを見回しながら声を掛ける。しかし返事が返ってくることはなく、辺りには静寂だけが漂っていた。小平太は布団から出ると、窓から外を覗いた。月が雲で隠れ、とても暗い夜だった。小平太は再び布団に潜ると、無口な同居人に昨夜はどこに行っていたのかと問い詰めてやろうなどと考えながら目を閉じた。しかし、朝になっても長次が帰ってくることはなかった。そして、夜になっても、次の日になっても、その次の日になっても帰ってくることはなかった。

「文次郎、長次が帰ってこないのだ」
 数日後、朝餉の時間に食堂へ向かった小平太は、奥の席に座る文次郎を見つけ、向かいに座り声を掛けた。すると、文次郎の隣に座って煮魚をつついていた仙蔵が、文次郎が何かを言おうとしたところで口を挟んできた。箸で指される。
「なんだ、小平太。おまえ長次から何も聞いていないのか」
「私は何も……」
 小平太が首を横に振りながら答えると、仙蔵は箸を置き、顎に手を添えるとふむ、と言った。何か、自分の知らない事情が絡んでいるような様子だった。文次郎のほうに目をやると、文次郎は茶碗と箸を持った手を止めたまま目を伏せていた。
「忍務だそうだ。数日ほど掛かるとあいつは言っていたが……」
「危険な忍務なのだな」
 小平太は直感した。静かにそう言うと、仙蔵と文次郎はそれきり何も言わなくなってしまった。小平太も、2人をそれ以上問い詰めるようなことはしかなった。
 熱い味噌汁を喉に流し込む。先に食べ終わった文次郎が席を立つと、1年生がけらけらと笑い声を上げながら食堂にやって来た。小平太たちに気づいた乱太郎・きり丸・しんべヱの3人組が元気よく挨拶をしてくる。小平太は肩越しに振り返り手を振ると、残りの献立を掻き込んだ。

 長次がいない日はとても退屈だった。滝夜叉丸や三之助を連れて走りに行っても、なんだか物足りない。委員会の打ち合わせも身に入らなかった。滝夜叉丸に「先輩、大丈夫ですか?」と声を掛けられ心配されたほどだった。そして少し休んでみてはどうかと促され、部屋に戻った小平太は、窓の外にある存在に気づいた。
「あ……!」
 長次の育てていた朝顔の花弁が、すっかりしぼんで元気をなくしてしまっていた。土を見ると、からからに乾いてしまっていた。小平太は急いで水を汲みに行くと、朝顔に水をやった。水はすぐに土に染み込んでいった。もう何日も水を与えてもらえなくて、よっぽど水を欲していたのだろう。小平太は、この朝顔が自分に似ているなと思った。
 次の日、水を汲んだ桶を朝顔のところまで持っていくと、朝顔が枯れてしまっていた。昨日水をやった時点で既に手遅れだったようだ。小平太は枯れてしまった朝顔に水をやると、桶を戻しに向かった。長次が悪いのだ。何日も放ったらかしにするから……。その直後、背後に何者かの気配を感じた。一瞬で振り返る。するとそこには、ぼろぼろになった装束に身を包んだ長次が立っていた。何かを言おうと口をもごもごさせていたが、長次が言葉を発するよりも先に小平太は長次の上に馬乗りになっていた。
「馬鹿者! おまえが早く帰ってこないから、おまえが育てていた朝顔を枯らしてしまったではないかっ……!」
 長次の胸倉を掴み、頭を押し付ける。長次の手がそろそろと伸びてきて、小平太の頭をぽんぽんと撫でた。何かをぼそぼそと喋っている。顔を上げると、長次は下手くそな笑顔を浮かべて言った。
「またおまえの顔が見られて、よかった」



おしまい