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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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背後からの狙撃



無論、今の古代には、見た光が確かに対艦ビームであり、それが〈ヤマト〉の艦橋を狙い放たれたものであるなど知るよしもないことだった。

宇宙軍艦の艦橋はまさに船の脳である。そして眼であり口でもある。すべての情報が集められ、分析されて指揮権を持つ艦長に届けられる場所である。操舵・砲雷をつかさどり、あらゆることがここで決まる。

ゆえに対艦戦闘では、ビームであれミサイルであれ、まずは敵艦の艦橋を狙って撃てというのが戦術の基本だ。艦橋を失くした船はもはや船ではない。戦闘も航行能力も持たない巨大スペースデブリだ。

そしてまた、古代が思いもよらないことがもうひとつあった。ガミラスの防衛兵器〈反射衛星砲〉はまさに〈ヤマト〉のような船を屠(ほふ)るために造られた兵器であり、〈ヤマト〉がどこから冥王星に近づこうとも一撃に艦橋をもぎ取ることを目的に考案されている。この兵器に死角というものは存在しない。〈ヤマト〉が決して躱すことのできない角度を計算し、狙い違わず急所に向けて必殺の砲を撃てるのだ。

古代が見た光はまさに、〈ヤマト〉の艦橋を狙って撃たれたビームだった。それも、おそらく躱すのが最も難しい方向から――。

ビームは〈ヤマト〉の後方から、煙突型のミサイル発射台をかすめて艦橋の背をブチ抜くよう狙い定められていた。その出力は先ほど第三艦橋に穴を開けたものよりはるかに強く調整がされていた。射撃角度の決定が為され、『十、九、八……』と発射の秒読みがされる間、冥王星基地司令室でシュルツは勝利を確信し不敵な笑みを浮かべていた。

『七、六、五……』

そうだ、とシュルツは頷き考えていた。いまや、地球の地下日本国地下東京は、停電して酸素が尽きるのを待つ状態にあるらしいとの情報もある。たとえやつらが今日を生き延びたとしても、回復した電力によって眼にするのは、艦橋を失くした〈ヤマト〉がこの冥王星の氷の大地に沈む映像となるだろう。ここで〈ヤマト〉の艦橋を撃つのは、地球人類すべての首を刎(は)ねるに等しい。この〈八年〉の戦いがあと数秒で決着するのだ。

『四、三、二……』

今度ばかりは避けようもあるまい。あの邪魔っけな煙突をギリギリかすめて背中を突くこの角度。これは急減速や急加速で躱せるようなものではない。そもそもやつらに背後からの狙撃など今この時点で予測できているかどうか。

『一……』

無理だ。これは躱せない。総統閣下はさぞかし喜ばれるだろう。地球人が外宇宙に出ることなしに滅びるさまを遂にお見せできるのだ。

『反射衛星砲、発射!』

砲撃手が唱えるように言ったとき、シュルツは胸中(きょうちゅう)に念じて言った。さらば、〈ヤマト〉。さらば、地球人類よ、と。