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Quantum

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 挑む様な眼差しで問い詰めるサガの内心の思いはよくわからない。教皇への敬いからくるものなのか、それとも不埒な行為をひけらかす教皇やシャカへの蔑みからくるものなのか窺い知ることはできなかった。

『私を信用できないのは致し方のないこと』

 ざっと強く吹いた風が悪戯にシャカを愛でるように触れながら通り過ぎていく。ふうわりとシャカを覆うヴェールが泳いだ。シャカだとは知らずに向けるサガの敵意。偽りの教皇時代を含めて決して親しい間柄ではなかったけれども、それでも志を同じくする仲間であることには変わりはなく、そんな仲間からの疑心の眼差しはこうも心苦しいものなのだろうかとシャカは感じていた。
 試されているのはむしろ自分の方ではないだろうかとさえシャカが思い、言葉に詰まった時、シオンの「戻れ」という声が脳裏に響いた。これ幸いとばかりに話を切り上げる。

『申し訳ないが……教皇に呼ばれた。時間切れだ』
「教皇が?それは残念。また機会があればゆっくりと話をしたいものだ―――貴方と」

 うっすらとサガは不敵な笑みを浮かべていた。そして明らかな敵視、宣戦布告のように厳しい眼差しをシャカに向けて言い放つのだった。

『―――楽しみにしている』

 そう告げるに留まり、ふうわりと小宇宙を高め、風に躍り出るようにシャカは聖域に、教皇シオンの待つ場へと身を移した。教皇の結界を通り過ぎて、トンと滑り落ちた爪先。そのまま重力を跳ね返すこともせずにシャカは崩れ堕ちた。

「どうした?シャカ」
「いえ、どうもありませんが」

 執務室でまだ作業を進めていたらしい教皇シオン。優雅に足を組み、座っていた教皇シオンの驚いたような声が降ってきた。

「なんともない、という雰囲気ではないようだが。服が破れておる」
「ああ……本当だ。いつのまに……」

 かわしたはずのサガの攻撃。気付かなかったが一部破損していたのだった。その下ではうっすらと血が滲んでいた。薄皮一枚程度だろう。痛みはまったくといっていいほど感じてはいなかったけれども、精神的に摩耗していた。疲労感が激しい。
 椅子から立ち上がってシャカに近づいた教皇シオンに手を差し伸べられたが、シャカは遠慮して自らの足で立った。そして言おうか言うまいか悩んだが、恐らく大方察しているだろう教皇シオンを前に先程の一件を正直に告げた。興味深げに教皇シオンは耳を傾けていた。

「―――といったようなことをサガと話しました。当然のことながら、彼は怪しんでいるのでしょう。私の存在に」
「であろうな、サガは聡いゆえ。そして、おまえは苦しいのか、サガに疎まれることが。おまえが幼き頃、サガに懐いていたように記憶している」
「いえ、そういうわけでは……」

 サガに懐いていた覚えなどまったくなかったシャカにすれば教皇シオンの言葉は心外だった。

「互いにそれとは知らず、新たな一面を見ているのであろう。考え方一つで、それは楽しくもあるのではないか?」

 面白い意見だとは思うが、シャカはゆるゆると頭を振った。

「私はサガだと認識した上でサガを見ております。しかし、彼は私だとは知らない。ゆえにサガにすれば私は得体の知れぬ者。それは公平ではないのでは?彼を騙しているようなものでしょう」
「ハッ!随分と間の抜けたことを言うなシャカよ。それはサガがおまえたちを謀っていた時も同じではなかったのか?サガはおまえたちのことを知りながら、おまえたちはサガとは知らなかったはず。それとも気付いていたのか、シャカ?」
「……情けないことに、私はサガが偽りの教皇であった時、教皇に対して疑念を持つことはありましたが、結局、確信を持てずにおりました」
「ふん。まぁ、それはもうよいだろう。過去のことだからな。シャカよ、そうと知ってなお、此度の件を了承したのは他ならぬおまえ自身だ」
「それは―――」

 低く諭す教皇の言葉にぐうの音も出ない。

「わしがおまえに望むのはシャカ、おまえがバルゴのシャカとしてではなく、試しを与える者として、である。俯瞰の位置で他者の眼差しとなり、あれらを公平にかつ厳しく捉えよ。そして、最大の試しとなれ。心意気はこの座を奪い取るほどにな。正義の化身たる聖衣を纏うおまえならばできるとわしは思うておる」

 低く冷徹な言葉は揺るぎ無いものだった。統べる者としての責務を果たし続けてきた者の言葉は揺るぎなく、重いのだろう。そして底のない深さだとシャカはズクリと鳩尾に鉛を飲み込んだような錯覚に囚われた。

「身に余る褒めのことばをいただき恐縮いたします。私は考えを改めねばならぬようです。どうやら、認識が甘かった。教皇、あなたのおっしゃる通り。そうあれるように努力いたします」
「頼もしい限りだ」
「ひとつ、確認したいのですが」
「なんだ?」
「決して意趣遺恨によるものではないですよね?」
「ははは!面白いことを言う」

 豪快に笑い声を立てた教皇シオンに対して、シャカはうっすらと口角を押し上げるに留めた。


作品名:Quantum 作家名:千珠