時津風(ときつかぜ)【序】
もっとチカラノアル自分ニ変ワラナければ勝てやシナイ。
余計ナモノハ 削ギオトセ。
ムダナ感情モ 感傷モ ヒツヨウナイ。
カツタメ ニ ヒツヨウナモノダケ ヲ ミロ。
ドクリ、と心臓が強く脈打つ。
── そうだ。負ける事は許されない。
勝ち続けろ。自分自身の全てを捧げるのだ。
目の前に立ち塞がるものは、全て振り払え。
その瞬間、これまで経験した事もないような暴力的とも言える程の強い力が身体の奥底から迫り上がって来た。それと同時に自分の中で、耳を覆いたくなるような叫び声があがったのを覚えている。
あれは誰の声だったか。
気が付くと俺は、自らの主導権を?もう一人の自分?へ完全に明け渡していた。
自分が自分であり続けられる場所を渡すまいとする思いに呑みこまれ、結局は自分で自分を手放してしまったのだった。
スベテニ カツ ボクハ スベテ タダシイ
── あらゆるものが視えている筈の俺の目は、肝心なものを何一つ映してはいなかった。
作品名:時津風(ときつかぜ)【序】 作家名:美月~mitsuki