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ファンタジー極点

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 つめたく無関心を決め込むねずみ色の雲の下に、なにやら赤や黄色になりはじめた木々と、青く光る水を敷き詰めた世界はあまりにも大きかった。その片隅の小さな箱の中で、美玖は息をしていた。幼い純粋さに、生まれたばかりの意地の悪さを混ぜはじめた人々が、彼女と同じ空間に生きていた。美玖は、その箱の中にある窓から、ずっとずっと向かいの団地の一室のベランダで、シーツと風が戯れている光景を見ていた。下ろし立てのようにあまりに真っ白な色をしているので、それが空気の光に反射してきらきらと光っている。美玖は、曇り空だというのに、まぶしさで思わず目を細めた。後ろでは、まったく耳のついていない生き物が発したかのような大声が聞こえて、でもそれがその箱の中の日常であったために、誰も驚いたりはしなかった。彼女だけは、いつもは背筋を震わせるのだが、今は、鼓膜を通しても脳まで届くことは泣く、よって彼女を怯えさせることはなかった。さっきまでシーツと遊んでいた風が、今度は美玖のいる箱の中までやってきて、彼女を縛ったり守ったりする手帳に遊ぼうと誘い出す。風と手帳の、気まぐれな占いが導き出したページを美玖は見つめて、シャープペンシルの消しゴムがついている方でトンと押した。美玖は、その些細な魔法の結果を見届けた。ふと、視線を後ろに向けると、ちょうど扉をあけて入ってきた藤と、目が合った。どうしようもない彼女は、彼の金色の髪を残像に残しながら視線を空してしまう。もう一度振り返る。また目が合う。慌てて視線を戻す。美玖は、彼が少しだけ笑っていることを確かに確認した。まだ現れるには早いであろう金星が出てきて、雲に向かってせわしなく光るせいで、もう雲は、何ごとも他人事では見れなくなってしまった。ありとあらゆるものがそっと美玖に嘘吹く。
 
「だめだよ」
 
 そのせいで美玖は動くことが出来なくなってしまうのだけれど、藤の微笑みに似たかんばせを思い出し、まだ風を集めて丸く膨らむシーツを眺めて、自分はそれに幸福を見出そうと、思った。それがまぎれもない悲しみなのだとは、美玖はまだ気がつかない。
作品名:ファンタジー極点 作家名:ゴミクズ