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同調率99%の少女(9) - 鎮守府Aの物語

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 翌日・翌々日にもなると、先の話としての噂の拡大自体は収まっており、流留に対する扱いは1年女子の間ではほぼ確立されていた。男子の方はというと、多数の女子と1人の女子どちらを敵に回すかを天秤にかけろと暗に女子達から迫られ、情けないことに大半の男子がその判断を決めていた。そしてその決断は吉崎敬大にも及んでいたが、敬大はあくまでも誤解を解くために反発する。しかし女子の捉え方は変わらない。

 登校してきて日課である同じクラスの仲の良い男子に朝の挨拶をするも、誰も挨拶を彼女に返さなかったその態度に流留はイラッとした。そして周りを見渡すと、離れたところにいるクラスの女子(の集まりのいくつか)が笑いをこらえている。無視をした男子はものすごく気まずそうに極力視線を流留に向けないよう努めて男同士で話を続けるフリをしている。

 流留は、彼らが自身に対して怖がっているわけではなさそうということをなんとなく察していた。が、察したところで流留は言わずにはいられなかった。
「あのさぁ……。Aくん、Bくん。そんなビクビクしないでさ、挨拶くらい返してよ。そーいうの見ててイライラするんだよね。」
「あ、あぁおはよ、内田さん。」
「ちょっと話してて気がつくの遅れたわ。おはよう。」

 流留を無視しきれない男子生徒は一応反応を返す。直接的な怖さは、気の強い性格の流留のほうが上だからだ。そういう態度は他の男子も同様だった。皆が女子との不和を望まない選択をしたためである。どこにもぶつけようがないもどかしさを感じたままひとまず挨拶は終わりとし、流留は黙って自席に着き授業の開始を待つことにした。
 集団イジメとなりつつあるこの空気は、静かに校内を侵食し続ける。


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 休み時間数回、ある写真がこの時代の若者に人気のSNS内で出回っていることが判明した。出回った範囲は、流留のいる高校の生徒間の範囲だ。
 流留はそのSNSを、仲の良い男子生徒とつながるために少しは使っていたが、その写真は回ってこず、目の当たりにすることはなかったので別のクラスの男子生徒から言われて気がついた。ある休み時間中、流留は他の女子の視線や陰口はまったく気にせずいつもどおり別のクラスの男子生徒と雑談しようと足を運んだ。
 その教室に入って男子生徒に近づくやいなや、男子たちは慌てて流留の側に行き彼女を一旦教室から外に出し、廊下で小声で話しかけた。

「内田さん、あの写真気づいてる?」
「は? あの写真って何?」
「やっぱ知らないのか……。ながるんと敬大の写真が○○内で出回ってるんだよ。」
別の男子生徒は額を少し掻いて状況説明を補完する。

「これだよ、これ。」

 そういってその男子生徒から流留は写真を見せてもらった。その写真は複数あるがいずれも、先日吉崎敬大と流留が屋上入り口で話していたときの写真だった。共有された文章にはこう書かれていた。

「振られた内田流留がまーた敬大に迫ってる〜!土下座かよ〜」

「敬大くんその日何度目の女子からの告白なんだろー?最後がこいつって敬大くんもかわいそ〜敬大くんにマジ同情(ToT)」
ひどい文章や別の写真のアングルとなると
「迫ったあげくにフェ○かよ!?なんなのこの女!頭おかしいんじゃないの!?」
「実は流留に近寄った男子全員色仕掛けされてたりww この淫乱女に」
「さすがにフェ○はないっしょww みんなエロフィルターかけて見過ぎwww 単に抱きつこうとしてるんでしょ?どのみちうぜーことに変わりないわ〜」

 などと、またしても尾ひれがついたものだった。しかも今度は確実に誤解されやすい状況証拠たる写真付きで、SNSで出回るという履歴が残る形での噂の流布なので前日以上にまずくなるのは明白だった。無視を決め込んだばかりの流留はさすがにこれは無視しきれない・自分の手にはもう負えないことになりつつある恐怖を感じ始めていた。

「これ……誰が撮ったの……誰が書いたの……?」
 男子生徒たちに問いかける流留の声は震えていた。彼女の質問に男子生徒たちは答えるには答えたが、彼女の慰めにもならない回答だった。
「共有されまくってて誰が誰から受け取ったとか誰が送ったかもうわからなくなってるんだ。」
「さすがにながるんがフェ……校内でそんなことしないとは誰もが信じてるけど、敬大と会ったのは確かなの?」

 何が気に入らないのか、やり方が汚すぎる。そう憎しみの思いが湧き上がると同時に流留の心は一気に限界に近づいた。泣きそうになるのをこらえ、声をゆっくりと重々しくひねり出して答える。
「敬大くんから呼び出されて……こんな嘘っぱちの話、どうにか……誤解を解かないといけないよねって話してて……。敬大くんから告白されたのが本当で、敬大くんからこんなことになってゴメンって謝られて……」
 女子達から厳しく言われていた男子生徒たちだったが、普段気が強く自分たちと楽しそうに話していた彼女がこれほどまで追い詰められ、震えて泣きそうになっている様を目の当たりにし、広められた噂話、張本人、そして女子に従おうとしていた自分たちに辟易し怒りさえ感じていた。

「うん。だろうと思った。ハッキリ言って女子共の話ひどすぎるぜ。」
「あぁ。なんでここまでしてながるんを貶めたいのか嫌うのかムカつくわ。」
「女子ってこえぇ……」
 別の男子生徒がふとこんなことを提案した。
「上級生や先生の耳に入るのも時間の問題だろうからさ、いっそのこと生徒会に相談してみたらどうだ? 1年の○組に三戸と○組に毛内さんっているだろ? あの二人、先日からどうもこの噂話を探ってるようなんだ。もしかしたら生徒会が助けてくれるかもしれないよ?」
「正直内田さんと付き合いある俺たちの中でも、内田さんにこうして面と向かって協力できるやつらはもうほとんどいないし俺たちだけじゃ限界だ。こんな写真付きの嘘話が広がって先生たちにまで伝わって悪化する前に頼るべきだよ。」

 生徒会と聞いて流留は思い出した。三戸から話を聞いた件のこと、彼らが関わっている艦娘のことを。おおよそ自分とは縁がない、非日常の世界に首を突っ込んでいる人たち。生徒側の最高権力者集団。全生徒に知れ渡る、性格は明るく少し砕けすぎるところがあるが成績優秀・運動もできる文武両道な生徒会長、光主那美恵。
 流留は自分と彼女らに、縁がないために頼るのをためらった。明らかないじめとはいえまだ2〜3日しか続いてない状況。自分でなんとかできると高をくくってるところもあったためだ。
 だがせっかく提案してくれた男友達の思いを無駄にしないためにも、ひとまず感謝の意を伝えて気持ちの整理も兼ねて考えることにした。

「ありがと。そうだね。相談してみるのもアリかも。ちょっと考えてみる。」
「早いほうがいいと思うよ。SNSのアカウントはやめておいたほうがいいから、これ。三戸のメアド。毛内さんのは知らんからとりあえず三戸に話してみたら?」
「わかった。」

 そう言って流留は三戸の連絡先を聞き、その場は一旦自分の教室へと戻ることにした。