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同調率99%の少女(9) - 鎮守府Aの物語

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 放課後になって人気が少なくなった頃を見計らい、生徒会室へ歩みを進める流留。三戸から来たメールにてOKをもらっていた。

「わかったよ。ちょうど会長たちは視聴覚室へ艦娘の展示しに行くはずだし、俺は理由つけてサボらせてもらった。あ〜もちろん内田さんのことは言ってないからね。」

 流留は生徒会室の前に来た。ノックをするのにためらう。が、こんなところを誰かに見られたらまたあらぬ噂を流されてしまう。辺りを見回したあと、急ぎ短く2回ノックをする。中からは男の声が聞こえた。三戸の声だ。流留はその声に従い、生徒会室へ入った。


--

 生徒会室には三戸しかいなかった。
「や。内田さん。どうしたの? 相談したいことって?」
 ややお調子者でひょうひょうとしたところのある三戸が、普段の口調で流留に尋ねた。

「三戸くん、もう知ってるよね。あたしのこと。」
 流留は10秒ほど沈黙していたが、やがて口を開いた声のトーンを普段より2割ほど落として言う。合わせて生徒会室の戸をそっと締めた。
「うん。噂ものすんごい広まり方だったからね。」

 また沈黙が続く。次に口を開いたのは三戸だった。
「実は俺と毛内さんはさ、内田さんたちの噂の出処を探ってたんだ。」
「そっか。」
「……驚かないの?」
「他の人からそれとなく聞いてたから。それで、何か分かった?」
「ゴメン。ほとんどわからなかった。力になれなくてゴメン。」
 座りながら三戸は頭を下げて流留に謝った。流留は両手を前で振って三戸の謝罪をやんわりとなだめる。
「いいっていいって。ただの高校生だもん。そんな調査大変だろうし、あたしなんかのために生徒会に動いてもらうのも気まずいし。」
「そうは言うけど一応生徒会にいる身としてはさ、生徒のギスギス感が出て学校の集団生活に影響が出るとまずいからさ。このままひどくなると上級生や先生たちの耳にも入っちゃってもっとややこしいことになるだろうし。」
「そういう仕事面での心配ってことね……。」
「あ、いやまぁこれは会長や副会長の言ったことの受け売り的なことだけどさ。でも同じようなこと思ってるのは本当だよ。」
 三戸の言葉を聞いて流留は安堵感と事務的な感覚での虚しさを感じた。

「で、内田さんの相談は?」
「あのね、生徒会の力で、あの…投稿、噂の広がりを防いで欲しいの。」
「うん。……えっ、それだけ?」
「それだけ。」

 流留は本当は言いたいことが山ほどあった。が、まだ言い出す勇気がないし、それらを適切に言うだけの言い回しも思いつかない。
 三戸は流留の願いを聞いて打ち明けた。
「そのお願いに関しては大丈夫。会長も事態を重く見たみたいで、こう対応しろって指示受けてっから。さすがに名前を挙げての注意はプライバシーもあるからそこはボカすけどね。」
「うん。ありがとう……」流留は手を胸に当てて一息ついた。

 普段は気が強く活発でカッコいいと可愛いが両立している流留が、ひどく小さく弱々しく見えた。言い方を変えれば、しおらしく見え、そこらにいるか弱い少女のようだと、三戸は感じた。いわゆるギャップ萌えを密かに感じていた。
 が、そんなことは口が裂けても言えないシリアスな空気なのでなんとか三戸は自重する。

 流留はゆっくりと口を開いて、言葉を紡ぎだして自分の気持ちを述べた。
「あたしは、こういう周りからの勝手な言い分には慣れてるからいいんだけどね……。あたしの周りの人にまで迷惑かけちゃってるみたいで辛くてさ……。」

 さすがの三戸も、流留のその言葉の半分に嘘が入っていたのに気がついた。それは、小動物のように怯える今の彼女の姿を見ればとてもそうとは思えないくらい、態度と吐露した気持ちに乖離が見られたからだ。
 まがりなりにも流留に普段接する男子生徒の一人として彼女を見てきた三戸は、言わずには居られなかった。
「ねぇ内田さん。本当のところはどうなんだ? 悪いけどさ、今の内田さん見てるととても平気だとは思えないんだわ。せっかく生徒会を頼ってくれたんだし、内田さんは艦娘の艤装と同調できたんだし、できれば助けたいんだ。それは本心からそう思ってるよ。」

 三戸はうっかり口を滑らせ艦娘のことに触れてしまった。流留のためにと思って接するように務めていたつもりだったが、艦娘のことを含めて言ってしまえば、関係が無ければ助けるつもりはなかったのかと思われてしまうのではとすぐさま不安になる。
 が、流留の反応は良い意味で三戸の予想を裏切るものであった。

 三戸の言葉を受け、しばらく沈黙していた流留だったが、俯いていた頭を急に挙げて三戸の顔を見て言い出した。
「!! 三戸くん!それ! それよ!」
「へっ!? な、何が?」

 予想外の反応をする流留の言葉に三戸は驚いた。そんな三戸の様子をよそに流留は言葉を続けた。
「あたし、艦娘になる!」
「えぇ!!? ってマジ? ていうかなんで今このタイミングで!? ちょ、まっ!」
「三戸くん驚きすぎ。落ち着いてよ。」
「あぁゴメン。でもなんで?」
「うん。急にやりたくなったから。」
「理由になってないじゃん……。どうしてか言ってくれないとスッキリしないよ。」

 そりゃ当然だと流留は思った。本当の理由や目的を三戸にそこまで言う義理はないし、自身の根源たる心がそう叫んだ感じがするのだから理性ではどうしようもない。ただそれを、彼女は適切に表現するほど言葉はうまくない。
「あたしのボキャブラリーだと上手く説明できそうにない……けど、本当に急にやりたくなったの。だから三戸くん、お願い! ってこれは生徒会長に言わないとダメかな?」

 まっすぐに三戸を見る流留のきりっとした目。意志を固めた表情が伺えた。三戸は流留の数日ぶりに男勝りなカッコいい女子の姿を見た気がした。惚れてまうやろ!と心のなかで三戸は叫んだ。
 彼女の真意を知る由もない三戸は、その目を見てそれ以上の理由を聞くのを止めた。
「艦娘のことはわかったよ。話を戻してさっきの内田さんの相談のことなんだけd
「それはもういいの!!!」

 意志を固めた凛々しい表情から一変し、目を瞑って表情をゆがめて俯きつつ語気を荒らげて叫ぶ流留。片足でドスンと強く踏む音が響いた。
「とにかく、生徒会にお願いしたいのはみんなを落ち着ける一言注意を出してくれればそれでいい。あたしの対応はしなくていい。気にしないで! そして……あたしを艦娘にしてください。お願い……します。」

 言葉の最後のほうに行くにしたがって流留の声は涙声になっていた。三戸は瞬発的に怒った流留の様子が、さきほどまでの弱々しい怯えた姿に戻っていくのを目の当たりにした。
 そんなに人の心を察するのが得意でない三戸でも、今の彼女は何かから目をそらそうとしているのがわかったが、それを指摘されるのさえ彼女は拒んでいるように見えた。怒鳴られた時にビクッとした三戸は、それ以上彼女に突っ込むことはできずただ一言言った。
「わかったよ。これ以上は言わない。内田さんの気持ちの本当のところは……もう気にしないでおく。あと、艦娘のことは後で会長に伝えておくよ。それでいいんだね?」
「えぇ。ありがと!!」