おまえが憎い
とてもとても悲しそうに、骸さまは言う。
握られた手首は徐々に力がこもってゆき、痛みが伴うほど。それは骸さまの心を表しているようで、私は黙ってじっと耐えた。これは罰なのだと。
少し前、私はボンゴレの守護者として敵と戦い、辛くも勝利したもののひどい大怪我をして、一時は危篤状態にまで陥った。生死をさ迷う中で、何度も骸さまの声を聞いた。クローム、と私の名前を呼ぶ声。それがなければ、私はここにはもういなかっただろう。
いま彼がなぜこんなにも打ちのめされているのか、私には理解できなかった。私は骸さまのお役に立てればそれでいい。この身体が傷つこうと、なんだろうと構わなかった。たとえ、死んでしまったとしても悔いはない。むしろ本望だ。それなのに、どうして。
意識が戻ってから一ヶ月の間、いくら心の中で呼びかけても骸さまからの返事はなかった。病室へ見舞いに来たのはボンゴレの人たちと、犬と千種。骸さまのことを聞くと、みんな困ったような顔をするだけで何も答えてはくれなかった。ボスだけがひとこと、「骸はすごく落ち込んでるみたいだ」と言った。
そして一ヶ月経った今日、突然骸さまは私を見舞いにやって来た。長く来られなかったことを謝罪し、私の体調のことを聞くけれど、彼は疲れていて少し痩せたように見えた。私よりもずっと、病人のようだ。虚ろな目をして私の手を取り、その甲を何度も撫でる。温かな感触が嬉しくて、私は彼に笑いかけた。
「約束してください、もうこんな無茶はしないと」
私の笑みを視界に捉えると辛そうに目を逸らして、骸さまはそう言った。頷いて、ごめんなさい、と謝ると彼は首を横に振る。
「かわいいクローム。お前はみんなに必要とされている。愛されてる。もちろん、僕もおまえを」
「骸さま…」
「だからもう、自分を投げ出すようなことをしてはいけない」
私の右手を両手で握り、祈るように骸さまは顔を伏せた。ごめんなさい、骸さま。でも私はあなたの悲しみがわからない。私は私を必要としてくれる人の為に在りたいと思っている。骸さまのためなら何でもしたいと思うけれど、今の彼の願いを聞き入れることはとても難しい。
「わからないの、骸さま」
「そうでしょうね。けれどクローム。たとえそれがおまえであろうとも、おまえを傷つけることは許しませんよ。自分を大切にしないおまえが、僕はとても憎い」
病室に飾ってあるたくさんの見舞いの花の中から薔薇を一輪手に取ると、骸さまは私の髪にそっとそれを挿した。そしてゆっくりと大きなてのひらで私の髪を撫でる。
「でも一番憎いのは、おまえを巻き込んだ僕自身だ」
その言葉を聞いて私は知ってしまった。骸さまが私を通して、ずっと自分自身を憎んでいたということを。
END