部隊編成
生粋の軍人ではなく、軍需産業に属するとはいえ民間企業に雇われたテストパイロットだから、そう思えるのだろうか。それとも、まだ彼が歳若いからだろうか。
「隊長、珈琲はいかがですか?」
衛生兵の今別府が天幕を覗き込むと、隊長である雅美・フォン・ヴァイツェッカーは机に向かって思案の最中だった。
机上に広げられているのはノートだ。その傍らには鉛筆が転がっている。
一見、落書きが書かれているだけにも思えるが、一旦書いた文字を二重線で消していたり、黒く塗りつぶしていたりして、試行錯誤の痕跡が見受けられる。
どうやら、次の戦闘における部隊編成を考えていたようだ。
「それにしたって、あいつら、本当に好き勝手なことばっかり言ってくれる」
今別府から受け取ったマグカップを片手に、彼は愚痴る。
「九鬼は対兵に特化してもらうとして、リトル・ジョンは……随伴兵は女だけがいい、とか無茶を言わないでくれ」
彼の吐露する内容に、今別府は苦笑した。
リトル・ジョンの搭乗者であるジョン・リスゴーらしい物言いだと思ったのだ。
しかし、彼は女性兵の人気はいまいちだが、男性兵たちからの人気は高い。
それについては、ヴァイにもわかっているらしい。各AFWの名が記されているもとに、随伴の各班名が追加されてゆく。
慎重に慎重を重ねて、その名が挙げられていく。
AFWと随伴兵。お互いがお互いを補う関係なのだ。その歯車がほんの少しでも違えれば、シュトライフェンの壊滅に繋がる。
「随伴兵あってのAFWだからな」
ぶっきらぼうに彼は言う。
「あんたたちがいなきゃ、AFWなんてただの鉄の棺桶だ」
ほかの兵科の兵士たちはどう考えているのかはわからないが、今別府としては消耗品と同等の扱いであったとしても、文句は言えないと考えている。未だこの地は戦時下に等しく、自分は戦闘員なのだからそんな扱いだとしても、それは当然のことなのだ。
それなのに彼は、生粋の軍人である鬼無里や元軍人のジョンには青臭いと一笑にふされるだろうが、随伴兵を庇い、彼のAFWである白虎を盾とする。
だが、もしかしたら、もしかすると、彼のその性格がこの寄せ集め傭兵部隊の生存率を引き上げているのかもしれない。
彼の掌中で鉛筆がくるくると回っている。
概ねの配置は決まったようだ。しかし、未だ彼の搭乗機である白虎の随伴は決まっていない。彼の眉間には深いシワが刻まれる。
今別府が注視する中、ヴァイは唇を開いた。
「あんたは確か白燐弾持ちだったよな」
「はい」
するとヴァイは軽く首を傾げて思案顔となり、己の搭乗機のもとに『今別府』と書きたす。そして、彼は視線を上げて今別府を見つめた。
「頼りにしている」
相変わらず、ぶっきらぼうな口調だ。
しかし、
「はい。任せてください」
笑いながらそう答えると、彼は若干、照れたように顔を背けた。
「珈琲のお代わりはいかがです?」
そう訊ねれば、独逸語の礼が返ってくる。
きっとこれも彼なりの照れ隠しなのだろう。
本当に奇妙な隊長だ。
それでも、彼についていけば、生き残れそうな気がした。
(20080713)