北へ
移動トラックは最大積載人員が決まっているため、随伴兵は持ち回りで各AFWの搭乗席に乗ることになっているのだ。
搭乗席の座り心地は最低なのだが、慣れてしまえば一定の揺れは眠気を誘う。
事実、彼女はAFWの背中でうつらうつらとしていた。
『そちらは大丈夫か? さっきから静かだが、転がり落ちてたりしてないな?』
突然、通信機から白虎の操縦者である雅美・フォン・ヴァイツェッカーの声が聞こえてきた。
「は、はい! 大丈夫ですっ、寝てませんっ」
反射的にそう答えて後悔した。
こんなところで眠ろうなど、どれだけ神経が図太いのだ。
案の定、
『……そこで寝られるのはすごいな』
苦笑の漣が伝わってくる。
末永は思わず赤面した。
「あの隊長」
『うん?』
「それでは、眠らないように話をしていてもいいですか? 独り言だと聞き流してもらってかまわないですから」
『……わかった』
ヴァイの承諾をもらった末永は、訥々と語りだす。
「隊長は光菱インダストリーのテストパイロットですよね?」
故に彼は生粋の軍人ではない。
『あぁ……君は?』
「私は志願兵なんですよ。志願した理由は……軍に入れば食いっぱぐれはないし、その分、家族の負担も減るから。私、兄弟がいっぱいいるから、少しでも食い扶持を減らしたかったんですよね。北日本に比べれば、ずっとマシな生活なんだろうけど、それでもやっぱりギリギリだし」
膝を抱える彼女の手に力が篭る。
「昔々……まだ世界のことが全然わかっていなかった子供の頃、自分は何処にだって行ける、って思っていたんです」
幼さ故の傲慢。そして、幼心に焼きついた、たった一枚のカラー写真。
モノクロ写真の中で唯一見つけたその色鮮やかな風景は……あの衝撃は今でも覚えている。
真っ白な雪と真っ青な空。その鮮烈な対比に心を奪われた。そのときからあの地を自分の目で見てみたかったのだ。
「今、考えればそんなことできる筈もないですけど」
イデオロギーによって分断された祖国。それでも、かの地に憧れた。どんな形であれ、いつか必ず訪れてやると心に決めた。
だから、自分はここにいる。ここから北へ向かう。
「この先、何処かで雪は見られますか?」
そこには一体、どんな景色が広がっているのだろうか。
『冬に向かっているから、多分、降るだろうな』
「隊長は雪って見たことあります?」
『いや、ない』
「楽しみですね」
例え、そこが己の最期の地となっても。
「一度でいいから雪に埋もれてみたいんです」
言って、末永は小さく笑った。
(20080924)