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春の夢の終わりを待っている

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桜が風に飲まれごうごうと唸り声をあげる中、彼は眠っていた。

ただっぴろい空間に、無理やり敷き詰められたような満開の桜の木が咲き乱れていた。奇妙なこともあるものだな、と思いながらもわたしは、ああ、彼は眠っているのだ、と理解してすぐにその場にしゃがみこみ、まじまじと彼を眺めた。床に敷き詰められた桜の花びらが彼をあっという間に覆って行くのを見てわたしはそっと彼の上に覆う桜を落とした。けれども風が吹く度に彼の体はすぐに覆われる、ああ、どうしたものかと考える暇もなく、気づけば自分の足下にさえも桜の花びらは迫っていた。まるで空っぽの浴槽に水が勢いよく満たされるように、花弁は溢れ出した。ああ、ああ、困った、そう口にして彼を起こそうにも、彼は酷く心地よさそうに寝息をたてるばかりで、大きな体をわたし一人では起き上がらせることすら出来ないのだ。不思議なことがあるものだ、と思っては桜を落とす、ごうごうと風が吹く。どんなに桜をはたいても何処から落ちてくるのか分からない花弁があっという間に彼を覆ってしまうのだ。ああ、どうしたものか、誰か、そう思ってあたりを見回してもわたしたち以外に人などありはしなかった。霞がかった先に、人影が揺れているように思えるものの、それが本当に人なのか、あるいはそれはただのまぼろしなのか、わたしには区別をつけることが出来なかった。はっとした拍子にわたしが彼に目をやると、花弁はすっかりとわたしの肘まで来ていた。彼の体は桜に飲まれて何処にも見えなかった。ああ、ああ!悲鳴にも似た声を絞り出すように吐き出して、わたしは息を止めて、花弁の海に潜り込んだ。

彼をひとりにしてはならない、そう本能で理解していた。初めてあったその時から、知っていたのだ。彼はおおよそ一人だ。孤独というと大仰にも聞こえるが、その表現のほうが正しいのかもしれない。幾ら大勢に囲まれ、談笑をしていても、彼はひとりなのだ。何が彼をそうさせるのか、わたしは言葉では理解していたが、本当の意味の理解にはほど遠いことも理解していた。わたしの孤独と、彼の孤独は似通っているようで、まるで別物であった。生きていた環境も、過程も文化も時間も宗教も、すべてが違ったのだから当然なのだけれど、それでもわたしたちはどこか似通ったものを持っていることを知っていた。それはすごく底辺にあるもので、それが何なのか、言葉にすることはまだ出来ていないが、お互い本能で理解していた。共有出来るものがあったからこそ、わたしたちは共にいた。

愛していたというと語弊があった。ただ、わたしたちは共有出来るものを、共有していただけだ。彼の好意を知っていた。けれど、その好意その物が、孤独から逃げるためであることも知っていた。それを受け入れた自分がいることも、他ならぬ事実であった。わたしたちは怯えていたのだ。自分たちはただ、自分たちの中にある<空虚>な空間を、埋める何かを必要としているだけだということを。

言葉にしようとしたら、涙が出た。花弁の波にさらわれながら、少しも開くこともできない瞼の隙間から、わたしは必死で手をもがきながらイヴァンさんを探したのだけれど、花弁を少しばかり掴むだけで、彼は何処にもいなかった。彼は何処へ行ったというのだ。わたしを残して、何処へゆけるというのか。風の音がやみ、最後にごう、と強く風が吹くと同時に、わたしたちを飲み込んでいた花弁は一気に霞の向こうに消え去っていた。取り残された私が目を見開き、あたりを見回しても、彼はどこにもいなかった。わたしは孤独であった。ああ、と声を零して嗚咽を吐き出て、ひとりでその場で泣いた。







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20100425 春の夢の終わりを待っている