某お茶CMパロディ
しんしんと雪が降る。
寒い、と思うと同時に早く帰ろうと思う。
もうすぐ橋を渡ろうという頃に向こう側から紅い傘が一つ。
思わず足を速めて橋の真ん中で互いの顔をしっかり見た。
「迎えに来てくれたんですか?」
「・・おう」
照れたように言う彼は紅い傘をぱさりと畳んでこちらの傘の中にくるりと入ってきた。
「おかえり、菊」
「・・・ただいま」
・月あかり編
文机の横に蝋燭を立てて本を読んでいると、無言ですすす、と部屋に入ってきた彼が傍らに膝を付いて何をするかと思ったら、ふ、と蝋燭の火を吹き消してしまった。
「・・・どうしたんですか?」
「ほら、見ろよ」
彼が示した方、今自分が背を向けていた縁側からは丸い丸い、月。
「満月、ですか」
「偶には、いいだろ?」
ちゃっかりと縁側には茶が用意されていた。
・衣替え編
部屋のタンスから服を出し、畳みなおす。
この家に嫁いだばかりの頃に夫が歌ってくれた歌を口ずさみながら。淡々と。
また一枚、ぱたりぱたりと畳んでいると縁側の外、庭から声が掛かった。
「衣替えですか?」
「あ・・ああ」
「お茶でも飲みませんか?」
「・・・いいぜ」
ほろりと自然に笑みがこぼれて給仕の用意をする。
茶を2つ縁側に持ってくると、ありがとうございます、と微笑まれる。
縁側に座る夫の隣に静かに座って、自分も茶を一口飲む。
「もうすぐ夏ですね」
ぽつりと夫が呟いた。
・初孫編
縁側に座る王にコトンと茶が差し出された。
気付いて斜め後ろを振り返ると銀髪の嫁が申し訳なさそうな苦笑いを浮かべていた。
「わりーな。お前来てるぞって何回も言ったんだけどよ・・」
「そんなの別にいいアル。我はこの子の顔見にだけヨ」
そういって腕に抱いた赤子を揺らしてあやす。
銀髪の娘の夫は現在自室に篭って作業を続けている。修羅場だとか、なんだとか。
しばらく来ないだろうな、と諦め心地で自分の茶を啜ると後ろでしゃ、と襖の開く音。
条件反射で振り向くとやや目の下に隈ができた愛しい夫がよろよろと縁側に近づいてきた。
「菊!いいのか?忙しいんだろ?」
「ええ、ご心配なさらずに・・。王さんにうちの嫁とその子を攫われても困りますからね」
「この子はともかく、流石にお前の嫁までは攫わねーアル!!」
「その子だけでも攫ったらぶっ飛ばしますよ」