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くぼた あつ
くぼた あつ
novelistID. 61096
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10月21日残業!

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今日はやけに仕事が多く感じる。
 別に普段と比べて特別多いわけではないけれど、進み具合が非常に悪くて残業になりそう。いや現実を見ろ私。残業確定でしょ。
 気分の問題なのはわかってる。

 今日は10月21日。

 誕生日の日に休みの申請を一応出しておいたのだけれど、わかってたのだけれどやっぱり休めなくて気分も乗らなくていつもよりもお仕事が進まなくて。
 学生時代にはこういう気分の乗らないときには周りが盛り上げてくれてたなんて思い出してまたお仕事が進まない。
「おーい絢瀬! 悪い、こっちの仕事も今日中に片付けておいてくれるか? ちょっと急ぎなんだ。ホントすまん! 頼む!」
 そして今、またお仕事が増えた。部長に手を合わせて何度もお願いされたら断れないでしょ。部長は悪い人じゃないけれど、要領が悪いんだから。今日中に片付けるお仕事ならもっと早く言って欲しかったな。
 私はOKのサインだけれど無言で縦に首を振って頷いた。これがせめてもの抵抗。 
「誕生日なのについてないな」
 誰にも聞こえないくらいの言葉で呟いた。オフィスにはもう部長しかいないけれど、さっきからバタバタと何かやっている。だからきっと、もっと大きな声で呟いても分からなかったでしょうけれど・・・・・・
 学生時代のことを思い出して思わず携帯電話の画像のフォルダを開く。この画像のデータだけは古い携帯電話からずっと引き継いでいる。
「懐かしいな。もうずいぶん昔の事みたい。実際ずいぶん昔になっちゃうのかな」
 元気が出ないときに眺める時に使っているのだけれど、ここ1ヶ月はこの画像フォルダの出番が特に多い。
 もう1ヶ月以上希と会ってない。
 今日は休みが取れたら会う約束をしてたのだけれど、私が休みを取れなかったから、会うのがまた次の機会になってしまった。
「希に会いたいな」
 学生時代にはいつも希が隣に居て、それが当たり前だった。でも社会に出て当たり前が当たり前じゃないってことはわかってたけど、頭ではわかっていたけど痛感した。
「あの頃は楽しかったな」
 私の心の声が勝手に口からこぼれる。
 今日は終電コースだから開き直って息抜きしようと画像を次々と眺める。
 希の画像ばっかり。私どれだけ希のこと好きなのかしら。ホントに。


 希、今何してるのかしら。


 みんなも何してるのかしら。もう頭は思い出モードに入っちゃった。
 甘々なコーヒーでも飲んで仕切り直しをしようとしたら部長が心配そうに私を見てた。
「絢瀬、大丈夫か? ずっとぼーっとしてたけど」
 私はハハハと無意識にカラッカラの乾き笑いで返事をしていた。部長の心配してる顔は変わらなかったけど部長が手にカバンを持ってるのが見えてしまった。
「ホントすまん! 絢瀬、今度昼飯奢るから。あの高いとこのランチ奢るから」
 そう言いながら部長はまた手を合わせながら私に向かってペコペコと何度も頭を下げながら、そして慌てて電話しながら扉の向こうに消えていった。
「そっか、部長今日結婚記念日って言ってたのよね。私も休みの申請の時に誕生日って言っておけばよかったかな」
 誰もいなくなったオフィスでわざと大きな声に出して独り言を言ってみた。
「私も誕生日なんだけどなーハハハ・・・・・・寂しい誕生日・・・・・・」
 携帯電話に入れてる音楽でμ’sの音楽を流してみた。ひっさしぶりに聞くとなんだか恥ずかしかった。
 これ、私達が歌ってるんだよね。なんだか嘘みたい・・・・・・ホント魔法にかかったみたいな時間だったな。
 携帯電話の画面を見つめながらまた思い出モードになっていたら急に音楽が止まり着信を知らせる音楽と同時に携帯電話が震えだす。
 画面には『にこちゃん』の文字。
 思い出モードMAXの私はびっくりして固まってしまった。それに今電話に出ちゃうと泣いちゃうかも知れない。
 一旦落ち着いて冷静を保って『にこちゃん』の文字を震える指でゆっくりとタップする。
「にこちゃん久しぶり。どうしたの?」
 とにかく冷静を精一杯保って電話に出た。これ以上喋っちゃうと変な感じになってることがバレちゃう。特にニコちゃんは鋭いから
「何よ絵里、そのテンション。希じゃなくてがっかりした感じよね。まぁいいわ。今お仕事? 電話に出ても大丈夫なの?」
 ニコちゃんは希じゃなくてがっかりしたように受け取ったようで、私の寂しさは感づかれなかったようでちょっぴり安心。
「誕生日おめでと。ところで今日お仕事はいつごろ終わりそうなの? アンタ忙しいんでしょ?」
「残念ながら残業が終わりそうにないから終電になっちゃうわ。ごめんね」
 ニコちゃんは私に会おうと思ってたみたいでちょっとがっかりしてた。
 ちょっとした世間話で、ニコちゃんは私の仕事が暇なことは詮索しないでとか、何の仕事をしているのかは秘密とかニコちゃんがいっぱい喋ってくれて私はただ頷いて話を聞いてるだけだった。
 よかった。喋っちゃうと気づかれちゃうから。
 だけどニコちゃんの電話の向こうが何だか騒がしい? 誰か居る?
「もぅ今日会えないならサプライズも何もないでしょ! 絵里がすっごい寂しそうな、今にも死にそうな声してるじゃない! ほら電話変わりなさい! ちょっと! のぞ」
 ニコちゃんは誰かとやり取りをしてるようだったけど電話は切れちゃった。
 誰かじゃなくて希だ。
 私が寂しがってる事もちゃんと見抜かれてたけどニコちゃんはなんで希と一緒にいるんだろう。私も希の隣に居たいのにニコちゃんが羨ましいよ。
 きっとサプライズで私の仕事終わりに誕生日を祝ってくれるとかそういうことなんでしょうけどやっぱりニコちゃんが羨ましいな。

 希の声、電話越しでも聞きたかったなぁ。
 希と喋ったら頑張れたのにな。

 そんなこと考えてたらまた携帯電話が震えてる。
 今度はメール。
『エリち! 今エリちのことだからウチの声聞きたかったなとか、ウチとおしゃべりしたかったなとか思ってたでしょ? ちがう? ウチはエリちの声だけじゃ満足できません。早く仕事終わらせて一緒にお祝いしよ? 終電でも何時でも待ってるから。0時過ぎて日付が変わってもちゃんとお祝いするから。ガンバレエリち!』 
 あぁもう本当に希には適わないな。
 私は一言『ガンバル!はーと』とだけ送信して仕事に取り掛かった。
 私の中でのスイッチが入る。急いで仕事を終わらせてたっぷり誕生日を祝ってもらうんだから!