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proof of the dog

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遠くでわらべ歌が聞こえた。

あれはどこかと、目の前でおはじき遊びに興じている子供に尋ねると、その子供は顔もあげず地面に両手をついたまま、「あっち」と言う。それでもどこかが分かった自分は「そうか」と言い、礼をのべた。その癖、子供は悪態をついた。可愛いげがないなと思った。

続いていく道はとても人が通れるようなものではなかったが、構わず突き進むと途中でひどく盛大に転んだ。近くにあった太い枝を持ち前のものをなぎ倒して行くとうまく前に進めたが、もはやどこに行こうとしているのか分からなくなってしまった。
暫くそうしていると、近くて遠い所から、大きな声に「こっちにこないか」と呼び止められる。
それ迄にも沢山の人に声をかけられていたことをその時思いだしたが、この男の声に気づけたので他はどうでもいいかと思った。男の声は豪快で心地よく、聞いていて飽きることがなかった。
ひとつ頷き、男の方へ行こうとすると、自分の体に無数の枝が絡まっていることに気付く。焦れて舌打ちをしていると、白く弱々しげな光を放つ女がやって来てそれらをひとつひとつほどいていった。生まれてはじめて人を綺麗だと感じた。その指先は枝に触る度に汚れていき、勿体無いと思った。やめて欲しかった。見とれるばかりで礼を言うのを忘れていた。

「トシ」
声をかけられそれが自分の名前であることに気付く。ひどく自分は疲れていた。倒れ込むように男の方へ向かうと、女は寂しそうに微笑み、蝋燭の火のように消えた。するとそこからひとりの子供が現れ、自分の背中を蹴ったあと、ひとしきり悪態をついて黙り込んだ。さっき会ったかと聞くと「会ってない」と言い、おはじき遊びは好きかと聞くと「餓鬼じゃねェ」と言われた。そうだった、似てはいるが、あの童は黒髪だった。色素の薄い髪の子供は自分のことが憎くて仕方ないらしい。何かにつけて憎まれ口をきくが、それでも腰元から離れようとしない姿に少しだけ愛着がわいた。
声の大きな男が「行こうか」と言ったので、俺は強く頷いた。子供はしきりに後ろを気にしていたが、俺が進もうとするともう気にすることはやめていた。

それから色々なことを語り、新しい服に着替えた。息苦しいスカーフと履きなれない革靴でぎこちなく歩いていると突然後ろで束ねた髪がごっそりと落ちた。少しだけ寂しく思い煙草をくわえ掌を見ると、赤いものが付いていた。汚いと思い拭おうとするがそれはますます濃くなっていったのでそのまま放っておくことにした。

「わらべ歌だ」

すっかり大きくなった子供がきょろきょろと辺りを見回した。男の方に顔を向けると、男も自分と同じように何も聞こえていないらしく、首を傾げている。「総悟、どこから聞こえるんだ?」馬鹿にすることなく、真面目な顔で男が尋ねると、総悟は「あっち」と言った。ひどく嬉しそうだった。

「聞こえるかね、近藤さん」
「だんだんと聞こえてくる気がしてきたぞ」
「嘘だろ。馬鹿馬鹿しい」
「俺、連れてきまさァ」

色の薄い瞳を輝かせて子供が言った。ひどく不快に思ったが、男が「平気だよ」と言ったので平気なのだと思うことにした。しかし子供はすぐに戻ってきて「土方さんがいいって」と言って唇を尖らせた。近藤さんが「行ってきてやりなよ」と言ったが、俺がいいと言う奴など、ろくな人間ではないなと思い、頷きはしたが向かわなかった。

それから沢山の血と煙を浴びた。額から血が流れ、近藤さんも総悟もどこかへ行ってしまったように思える。ミントンラケットを持った男が「あなたが背負っているじゃないですか」と言った。そうかもしれない、背中がとても重たく、温かだった。暫くしてミントンの男も水を飲んでくると言ってそのまま帰ってこなかった。

それからはずっと独りだった。
這うように、ただ夢中になって進んでいると指先でわらべ歌が聞こえた。懐かしく思い目をつむると、もう眠ってしまってもいいのかもしれないと思えた。
自分はどこかで間違ってしまったのだろうか。全て、自分が悪かったのだろうか。
震える指で目頭を押さえると、いつの間にかわらべ歌は聞こえなくなっていた。

「行き止まりですか?」

その声は自分のすぐ後ろで聞こえた。勢いよく振り向くが、誰の姿も見えない。
「いきなり止まるからぶつかってしまったじゃありませんか」そう言って額を押さえた女が現れた。背中にぴったりと張り付いてきたのだと言うが、そんな筈はない。どうせ嘘だろう。

「嘘じゃありません。ずっと後ろをついてきました」
「ずっとっていつからだ」
「ずっとですよ」

ムキになって女が喚く。その手は自分と同じように汚れていて、やはりまた、勿体無いと思った。
俺についてくるのは辛かっただろうと尋ねると、副長が前にいたから平気だったと言う。これからどこへ行くのかと尋ねると、ずっと一緒に行くと言う。馬鹿だな、と笑うと、女は無言でぴたりと隣に寄り添った。
本当に馬鹿だ。自分の目から、一粒涙が零れた。女は驚いたように瞬きをしたあと、大切そうにそれをなぞり、「気付いてもらえたから、いいんです」と言って微笑んだ。






作品名:proof of the dog 作家名:リョウコ