遊戯王 OWN:プロローグ
下校時、今日も小学校から賑やかな空気が放たれる。黄色く明るい中にぽつんと一つ、黒い点が紛れている。遊二には友達など居らず、今日も俯きながら一人で帰路を辿る。
彼の近所には大きな公園がある。その中を通るのが、帰宅するには近道だった。公園の池の畔には木製のテーブル付きベンチがあり、見慣れない一人の少年がカードをいじっていた。
遊二は少し距離を置いた場所で、その様子を眺めた。
彼もカードゲームは好きだ。しかし、対戦する相手が居なかった。必然的に、彼の楽しみ方はコレクションのみになっていた。
「珍しいな…」
そう呟いて再び歩き始める…
その矢先、遊二の背後から言葉が飛んできた。
「ねぇ君!」
声に振り返った直後、彼に向かって一人の少年が駆け寄ってきた。
予期せぬ彼の行動に、遊二は動揺して黙り込んだ。
「君だよ君!名前は?」
「鮫島…遊二…」
反射的に、名乗ることは辛うじて出来た。
「そっか!あのさ遊二、デュエルモンスターズやりたいの?」
そう言って、駆け寄って来た少年はテーブルの方を指差す。
「あっ…いやっ…」
人と話す事に慣れない遊二は言葉を詰まらせた。しかし、断ろうと覚悟を決めようとする遊二を他所に、彼は手を掴み、テーブルに引っ張ろうとした。
「ちょうど良かったよ。ここ、お母さんの用事で初めて来てさ、誰か相手が欲しかったんだ!」
「でも…俺は…」
遊二は断りたかった。だが、そんな勇気は彼には無かった。
結局、遊二はデッキを借りて、彼とデュエルを楽しんだ。初めは苦痛でしかなかった会話も、帰る頃にはトントンと弾ませる様になっていた。
対戦は初めてだが知識は豊富で、打ち解けるにはそう時間はかからなかった。
自分はカードのコレクションが好きな事、少年の家は離れた場所にある事、デュエルモンスターズに関わる事だけでなく様々な話を交わした。
帰り際、少年は遊二に一枚のカードを渡した。
「友達の印、受け取ってくれよ!」
遊二はカードを受け取った。
「バハムート…シャーク…」
「君、鮫島って名前でしょ?君にぴったりだと思うんだけど…どうかな?」
遊二は少しの間カードを見つめ、顔を上げて笑った。
「すっごい嬉しい!ありがとな!」
遊二の言葉で、少年は安堵した。
「なら良かった!そうだ、俺は黒羽翔、よろしくね!」
そう言って二人は握手をした。
「家遠いんだろ?またデュエルできるかな?」
不安そうな遊二の両肩を、翔は両手で、軽く2回叩いた。
「デュエリスト同士、絶対いつか会えるから。そしたら、またやろう。その時までに強くなっててよ!」
その言葉で、遊二の気がかりは吹き飛んだ。
「そうだな!俺、頑張って友達作って、沢山デュエルする!それでもっと強くなるから!」
二人は互いに笑いあった。
その時、翔の母親が迎えに来た。
「そろそろ帰んなきゃ。じゃあ、またいつかやろう!」
「あぁ!またいつか!」
そう言って、遊二と翔は別れた。
それから6年、ついに遊二は高校生になった。
入学式の日、マイペースな遊二は、登校時間ギリギリに到着した。
「やっべ!遅れる〜!」
クラスの表から、自分の名前を探す。
「5組の17番か!どんな奴らがいんのかなぁ。早く行くか!」
そう言って、彼は校舎に駆け入った。
階段を上がり、教室に向かう。ドアは前後とも開けられたままだ。中からは緊張感のある静けさが漂い、流石の遊二も静かに入る。
席に座り、荷物を机の横に掛ける。
大声は出せないが、隣の人くらいは話しても大丈夫だろう。そう考え、遊二は隣の男子に声をかけた。
「よぉ、お前、名前…は…」
隣の生徒の顔、前に見た事があった。驚きを隠せず、遊二はボソッと呟いた。
「まさか…翔…?」
作品名:遊戯王 OWN:プロローグ 作家名:SD