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ダカーポ2 snowy tale

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第1話

 余りの寒さに目が覚めると、胸元に妙な感触を覚えた。柔らかくて吸い付くような何か。

「おはよ、義之。お目覚め?」
「杏……朝からお盛んだな」

 言いながら、杏は俺の胸元にキスを繰り返す。きっとキスマークだらけだろうな。今日が夏で水泳の授業なんてあった日には変態扱いされるぞ。

「ふふ、おはようのキッスはお気に召さないんでしょ? だったら、こっちにするしかないじゃない」
「あれは……なぁ……」

 以前、杏は精神衛生的に宜しくない所へお目覚めのキスをしていたことがある。あれは色々と問題が生じるので何とかやめて貰ったばかりだった。

「ん、充電完了。ほら、さっさと起きて。朝ごはんの支度は終わっているから」
「あぁ、ありがとう……って、また寝ちゃったのか。いつも悪いな」

 今は12月。学校生活最後の締めに映画を撮ることになって、杏は日々脚本作りに没頭していた。枯れない桜が散って記憶力が低下した杏の話は独創的になったらしいが、その半面、支離滅裂になってしまうこともある。俺はそれを修正するために、こうして泊まり込みでサポートしている訳なんだが。

「もうこの生活にも慣れたわ、あ・な・た」
「ぐ……面と向かって言われると恥ずかしい台詞だな、それ」

 杏の執筆と俺の読む速さがかみ合うはずもなく、気が付くと眠ってしまう日々が続いている。でも、俺は目覚めると布団の中にいる。

「さ、早く食べちゃって。今日も消化試合をしに行くわよ」
「授業を受けに行くんだろうが」
「あら、いつから優等生になったのかしら?」
「俺は元々優秀だからな。授業なんて眠っていても余裕だ」
「へぇ……朝倉先輩にラブコールしちゃおうかな」
「悪かった、俺が悪かった」

 そんなやり取りをしながら手早く身支度を整えてバスに乗り込む。そこには、いつもの見知った面々が座っていた。

「おっはよー、義之くん、杏ちゃん! 朝からお熱いねぇ」
「羨ましいぞ、このこの! このラブルジョア野郎、死ね!」

 物凄くテンションの高い茜と、呪詛を吐く渉に出迎えられるがあえて無視して二人がけの席に座った。

「あーん、無視しないでよー。渉くんならわかるけど、どうして私までぇ」
「俺の扱い酷くね? この不公平さを今すぐ正すべきだ!」
「あー、もう、お前ら少し黙ってくれ。杏が寝ているんだよ」

 席に座るや否や、杏は俺の肩に頭をもたれて眠ってしまっていた。脚本作りで疲れが溜まっているせいだろう。俺にできることは、少しでも休んで貰うよう配慮するくらいだ。

「そっか、ごめんごめん。いやはや、それにしても義之くんがこんなにも愛妻家になるとはね。予想通りではあったんだけどさ」
「うーん、そう言われてもな。これが普通だろ?」
「正直、俺は杏が羨ましいぜ。家事を一通りこなせて、肩まで貸してくれるなんて……義之ちゃん、俺の彼氏にならない?」
「ところで、今日の授業は何だっけ?」
「もう、義之っちの馬鹿! イケず! 豆腐の角に頭を打っちゃえ!」

 そんなこんなで楽しい通学をしていると、バスが目的地に着くか否かのところで茜がとある提案をした。

「ねぇ、卒業旅行をしたくない?」
「は? 撮影の旅行とは別にってことか?」

 杏の脚本は冬のロッジが舞台になる。既に場所は確保済みだ。それが卒業旅行も兼ねているのかと思っていたが、茜にとっては違うらしい。

「もう、義之くん? それはそれ、これはこれよ」
「うーん……そういうものかな? 俺は杏が行くって言えば行く……」

 ふと、隣で眠る杏に目がいく。物忘れが多く、ひとつのことに没頭し過ぎて体調管理がおろそかになることがあるんだよな、杏って。放っておけないというか、守りたくなるというか。そう考えると、あれのタイミングは早い方が良いのかもしれない。これはまたと無い機会だ。

「いや、杏は俺が説得する。折角だから皆で行こう」
「やった、流石は義之くん! 渉くんも来るよね?」
「茜様、私のような下賤な者も誘って下さるなんて……義之っちとはやっぱり違います!」

 まだ不貞腐れていたのか、渉。

作品名:ダカーポ2 snowy tale 作家名:るちぇ。