C.C.2 SS 最先端との格闘
「由夢、あの店は何だ? ひどく無機質な物ばかり並んでいるが」
「そこは家電量販店ですね。あ、これ懐かしいな。ルンバっていうんですよ。家にもあったんですけれど、お姉ちゃんが自分で掃除したいからって封印しちゃったんですよね」
由夢が指さす物は大きいフリスビーのような円盤状の機械だった。掃除と言っているのだから掃除用具なのだろうが、これでどこを綺麗にするのだろうか。そういえばこの形状、どことなくUFOと似ている。そうだ、こいつは浮力で浮かび上がり、大気中に浮かぶ埃や花粉なんかを吸いこむに違いない。高級なタイプになるとお出迎え機能なんかも付いていそうだ。そうなると、こいつは美夏たちの親戚か。
「いやー、懐かしいな。道理で、こいつは美夏とどこか似ていると思ったわけだ」
「へ? 似ている……ですか?」
「あぁ、そうだ! きっと何十年もかけてここまで育ったのだろう? いや、美夏も鼻が高い」
頑張れよ、とルンバという同類をポンポンと叩き、店の中を覗き込む。中では多少進化しているようだが、見慣れた冷蔵庫、テレビ、クーラーなどが売っていた。ふむ、あれから50年も経つというのに、電化製品は余り進化していないのだな。さっきのルンバは凄かったが。
「ふむぅ……特に真新しいものは何も無さそうだな」
「そうですか? ほら、あのテレビを見てください。3D映像対応型ですよ」
「すりーでぃ? 何だ? そのすりーなんとかというのは?」
「見てみるとわかりますよ。行ってみましょう」
由夢の後を付いてテレビ売り場を歩いて行く。真新しいものなんて無い、と言ったが、テレビの画質の進化は目を見張るものがある。美夏の目をもってしても、画面の枠を取ってしまえば、写真と何ら違いが無いと思ってしまうだろう。
「着きましたよ。丁度、3D対応の番組がやっているのでよくわかるんじゃないかな?」
「ぬ……ぬぉおぉぉっ!?」
前を見ると、そこにはライトブルー色の世界が広がっている。魚が横をすり抜け、それが波になって水中を揺らす。紛れも無くそこは水の中。まさか、今のテレビは視聴者を異世界へ飛ばす機能でも付いているのか。
そんなことより、ここは水の中。口を手で覆い、酸素の確保をせねば。
「あの……何をしているんですか?」
「い……息を止めねばと……うぉおぉぉっ!? ゆ……由夢! あ……あれは、サメではないのか!?」
向こうから鋭い牙をチラつかせたサメがやって来る。しかも迷うことなく、一直線に。間違いない、狙いは美夏たちだ。由夢の方をチラ、と見る。距離的に考えて、間違いなく最初の標的になるのは由夢。逃げるべきか、なんて考えが一瞬頭の中に浮かぶが、頭を振って否定する。何を考えているのだ。わずか一日であったとはいえ、恩人を見捨てるほど美夏は薄情ではない。それに美夏はロボット。もし万が一食べられたとしても、メモリーチップさえ回収できれば復元が可能だ。
一つ深呼吸する。大丈夫だ、美夏ならやれる。確かサメは鼻先が弱点ではなかったか。大丈夫、美夏ならやれる。最悪片腕程度なら、すぐに修理できるだろう。恐れることはない。
「由夢、下がれ! ここは美夏に任せろ!」
美夏は思いっきり大地を蹴り、サメに掌底を食らわせに走った――
「だ……駄目! 天枷さん! そんなことしたら壊れちゃうから!」
「は……離せ、由夢! 美夏はもう覚悟したのだ! 大地を蹴ったその時に……って、大地を蹴った?」
水の中でどうやって大地を蹴るのだろう。それに、美夏は深呼吸までできている。どういうことだろう、と首を傾げていると、サメは美夏たちをすり抜けて行ってしまった。
「……つまり……あれか? これは立体的に見えるテレビ、ということか?」
「はい……そういうことです。ごめんなさい天枷さん。ちゃんと説明するべきでした」
「い……いや、由夢が無事ならそれで良い。そ……それにこの責任は美夏にあるから、由夢は余り気にしないでくれ」
それだけ言うと、美夏たちはそそくさとテレビコーナーから立ち去る。しかし……今の技術力は凄いな。美夏は世界を立体に見ることができるが、その応用だろか? 本当に映像だとわからない世界だったな。
こうして、まだまだ美夏たちの商店街歩きは続く。
作品名:C.C.2 SS 最先端との格闘 作家名:るちぇ。