ヘレナ冒険録
[戦争の爪跡] 『マリーちゃんがしばらく冒険に同行してくれることに。とても心強いが、大陸間の移動が手漕ぎボート一択になってしまったのはなぜだろう……。今は考えても仕方ない。次はゾルダードへと向かうことにしよう』
「うーん。やっぱりせっかくミシディアにいるんだし、次は魔道図書館かな」
世界地図を広げて次の行き先を思案しているな、ヘレナよ。
「ヘレナちゃん、あそこは今、普通の人は入れないよ」
「え!? そうなの?」
「うん。なんか最近ごたごたがあったみたいで、立ち入り制限がかかってるんだよ! それにさ、ミシディアのこと知りたいなら、ボクが教えてあげるよっ! だから、こんなとこ早く出て次の大陸に行こうよ!」
どうもマリーはミシディアのことをよく思ってない節があるな。まあ、緑魔道士の生い立ちを聞いてしまったから、それもわからなくもないが。
「今いる古城のことも、もう少し調べてみたいけど、ごたごたがあったのなら下手に手を出さない方が良さそうね。それに一通り大陸を回ってみたいし……。よし、次はここから一番近いゾルダードに行ってみることにするわ」
「ついて行くよ! えへへへへ……。次はどんな強化しようかな」
もしかして、また手漕ぎボートなのか。ヘレナよ、君も何の違和感もなく手漕ぎボートに乗り込んでいるが、よく考えてみたまえ。この飛空艇の時代、手漕ぎボートで移動している人間は恐らく一人もいないぞ。それにマリーの緑魔法で強化されるのはいいが、あんまりムキムキにはならないで欲しいのだがな。
「ふう……。ミシディアからゾルダードまでが、やけに近いと感じてしまうようになったわ。ともあれ、到着ね」
「ヘレナちゃん、お疲れさまー。もうボクの強化なしでも大丈夫なくらい、ボート漕ぐの上手になったね!」
「うう……。なんか、素直に喜べないわ」
「あ! 町が見えるよ! 燃えてるけど。さっすが火の神殿のある国は、町も燃えてるんだね!」
「え!?」
いくら火山地帯の国ゾルダードだからといって、町まで燃えてるなんて、常識では考えられないな。それは恐らく……。
「あれは……本当に燃えてるわ! もう手遅れかもしれないけど、とにかく行ってみよう」
「うーん。行ったところで、ボクたちにできることあるかな」
「まだ逃げ遅れてる人もいるかもしれない。マリーちゃん、力を貸して!」
「あ! 良いこと思いついたっ! えへへへへ……。行こう、ヘレナちゃん!」
また何か、よからぬことを思いついたような顔をしているな、マリーよ。しかし、ここで指をくわえて見ているよりはましだろう。様子を見に行ってみよう。
「ひどい……。でもこれは、自然災害でもなければ、魔物にやられた感じとも違うわ。もっと人為的な……」
「これが戦争の跡ってやつさ、お嬢ちゃん。帝国のやつら、飛空艇からの爆撃ですべて焼いてしまったのさ」
ひどいやけどを負った男性、恐らくこの町の住人だろう。
「飛空艇の爆撃……。ひどいわ。どうして普通の人たちがこんなひどい目にあわなきゃいけないの?」
「この町に、帝国に敵対する反乱軍のアジトがあるってばれたからさ。ま、すでにソゼ皇帝も倒されたし、嘆いてばかりもいられない。これからだ。ゾルダードはシエラ様のもと、これから力強く復旧していくさ」
すでに戦争は終わっているのだな。戦争は終わっても、いまだ燃え続ける町。この男性も前向きではあるが、爪跡は深そうだ。
「私のロマンは、ここでは何の役にも立ちそうにないわね……」
「そうかなー。ほらっ! ボクの緑魔法でヘレナちゃんを強化してさ、復旧を手伝うっていうのはどう!?」
なるほど。マリーが思いついた『良いこと』とは、こういうことだったか。ここでもヘレナを緑魔法の実験に使う気だな。
「気持ちは嬉しいが、お嬢ちゃんたち。この町は……いいや、この国はこの国の人間の手で復旧させていくさ。あんたたちはあんたたちで、自分のやるべきことをやりな」
「うーん……。せっかくヘレナちゃんのあんなとこを強化して……あんなことさせて……いろいろ考えてたのにな」
「マリーちゃん……。一体私にどんなことさせる気だったのよ」
「えへへへ……」
よく止めてくれた、町の人よ。これ以上ヘレナが実験材料にされるのは見たくないからな。
「それよりも、あんた見た感じ冒険家だろ? 火の神殿にはもう行ったのか? クリスタルはもうないが……行ってみたらどうだ?」
「見ただけで冒険家ってわかってもらえるなんて……。私もそろそろ一流冒険家の仲間入りね! ……えっと、ごめんなさい。火の神殿、やっぱり行ってみるべきね! 一流冒険家たる者、神殿と名の付く場所には行かなくっちゃね」
おっと、やっぱりヘレナはそうでなくちゃな。人助けも大事だが、今この国は自分たちで戦後復興を成し遂げようとしている。君は冒険家として、自分の道を進むのだ。