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ヴァレンティーノ◆2010

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「・・・?」
 いつものように朝の光で目を覚ますと隣に寝ている筈のフェリシアーノがいない。あいつが俺より早起きすることなんてない筈なのに、どこへ行ったのか?
 いつもと違って何となくすっきりしない気持ちで、のそのそとベッドから起き上がりルートヴィッヒが着替えていると、

「ルート、おっはよう~!」と、珍しく朝早くから元気いっぱいのフェリシアーノが部屋に飛び込んできた。
「・・・ああ、おはよう」とルートヴィッヒはつい不機嫌そうに答えてしまう。
 ・・・何でだ?何でここで俺が不機嫌にならなきゃならんのだ?とますます不機嫌になってしまう自分に、ルートヴィッヒは少しイラついていた。

「・・・ルート?・・・どうしたの?何かあったの?」
 普段空気を読まないくせして、そういうことには敏感なフェリシアーノが、ルートヴィッヒの異常をすばやく察知する。

 ・・・よりによって、一番突っ込まれたくない所に突っ込まれてしまった。
「い、いや別に何でもないぞ」
 ルートヴィッヒは慌てて取って付けたようにそう答えたが、フェリシアーノが納得していないのは見た目にも明らかだった。

「・・・そう。なら、いいんだけど・・・」こんなときはいつもそうするように、フェリシアーノはちょっと寂しげに小さく溜息をつくと、そう答えた。
 その瞬間、ルートヴィッヒの胸が痛んだ。
 ──悪いのはお前じゃないのに。・・・悪いのは俺の方だ。

「・・・すまない、許してくれフェリシアーノ、そうじゃないんだ」
 そう言いながら慌てて薄っすらと涙ぐむフェリシアーノを抱きしめる。フェリシアーノの口からまた小さな溜息が零れた。

「・・・うん、分かってるよ、ルート。俺・・・大丈夫だから」
 健気に笑ってみせるところが、またルートヴィッヒの胸を鋭く抉った。

 ・・・だめだ、何で今日に限って、朝からこうドツボにハマってしまうのか。今日はせっかくのヴァレンティーノだっていうのに。
 ルートヴィッヒは自分の不器用さを腹立たしく感じるのと同時に、今度は悲しくなってしまい、抱きしめたフェリシアーノの耳元で、思わず溜息をついてしまった。

「・・・ルート、泣かないで」
「なっ・・・おっ、俺は泣いてなんか・・・!」
 慌てて真っ赤になって反論するが、本当はルートヴィッヒの目を薄っすらと涙の膜が覆っていた。
 フェリシアーノは、抱きしめたルートヴィッヒの腕を軽く緩めるようにすると、彼の唇にそっと優しく触れるだけのキスをした。

「・・・!」
「・・・ルート、覚えてる?去年のヴァレンティーノのこと」

 ──突然のキスに、未だに彼が慌てふためくのは年中行事だけど、彼のそんなところが好きだ、とフェリシアーノはまた改めて思う。

「・・・Valentino felice」
「俺たちの記念日だね、大切な。・・・一生忘れないよ」
 そう言うと、いつの間に用意したのかフェリシアーノは真っ赤なバラの花束を差し出した。
「・・・Danke」
 ルートヴィッヒはたった一言、ぶっきらぼうにそう答える。
 いかにも照れ臭そうで、緊張しすぎでちょっと怒ったような顔をして、やや目を逸らしながら、でも頬を赤くしてバラの花束を受け取った。

 ──ああ、やっぱりこれが彼なんだ。これが俺の愛した人。
 不器用だけど、ほんとは誰よりも優しくて。切ないくらい愛しい人。世界中に俺の声が届けば良いのに。俺は世界中の誰よりもこの人を愛しています──って。



                                    La fine

作品名:ヴァレンティーノ◆2010 作家名:maki