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同調率99%の少女(11) - 鎮守府Aの物語

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 提督からの非常に長い言葉だった。長かったが、流留と幸は慎重な面持ちで飽きることも眠くなることもだれることもなく、提督の発するセリフをしかと耳に詰め込んだ。二人ともその長い言葉から、目の前にいる西脇という男性の持つ思いを感じ取ることができた。
 場所が場所なら、おそらくこの人は生徒のあらゆる思いに応えてくれる熱血教師にもなったであろうとか、自分の弱点を認められる素直な人、それを踏まえて自分らに協力を求めてくるほど頼りなさそうだが純粋で人の良い人だなど、感じ方は異なるが流留と幸の感じ取り方が向かう先は共通していた。
 提督の言葉を受け、川内となった流留、神通となった幸は深くお辞儀をして返事を返す。
「よろしくおねがいします!この川内に任せて下さい!」
「……新参者ですが、軽巡洋艦の艦娘として精一杯頑張ります。よろしくお願い致します!」
 二人の返事は強い決意がこもっていた。今回ばかりは幸も可能な限りの声量で勢い良く返事をする。
 二人の言葉の後、自然と拍手が湧き上がった。


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 そして二人の間におり、位置的には提督の真正面に立つ形になっていた那珂は自分の時とは違うそのセリフを聞き、新鮮に感じつつも今まで彼に対して感じていた感情を思い返してより一層たぎらせる。
 提督はカンペ等は一切見ずに長いセリフを発し、視線は言及したその人らにしばしば向けられた。が、基本的には那珂、川内となった流留、神通となった幸の3人に向けられており、主役は川内と神通だけではなく、那珂を含めた川内型3人としていたことが伺えた。そんな捉え方の中で、那珂は言葉の一つ一つをかみしめていた。
 素直で純粋に突き刺さった言葉。しかし悪く言えば自信がなさげで考えが幼稚なところがあるがゆえにストレートに伝わってしまう言葉。自分ら艦娘となった少女たちを鼓舞し、大切な人と思ってくれているような言葉。
 言葉の一つ一つが那珂の心に突き刺さってくる。

 着任してからの今までのことが思い出される。自意識過剰かもしれないが、今こうして提督の言葉を聞けるのは、自分の行動があってのことかと那珂は思った。見ず知らずの後輩だった流留と幸がここで自分の前に立ちこれから人々と世界のために戦おうとしているのも、自分の行動が縁になってのことなのだと自信を持って言える。
 那珂として、光主那美恵としての行動一つ一つが、西脇提督率いる鎮守府Aを形作ってきた。自分の行動が役に立ったのかもと思いを巡らせた途端感極まり、提督を見る彼女の瞳はいつの間にか潤んでいた。茶化す者が茶化されてはいけないと、目の潤みを指を使わないで必死に抑えようとする。

 那珂の真正面にいる提督が那珂の様子に気づくが、彼はそれを見なかったかのように視線を逸らす。那珂はすぐにうつむいて左手の人差し指で潤んだ目をこすって拭いとった。そのおかげか、それとも流留と幸の死角となったため皆が気付かなかっただけなのか、那珂の感極まって涙を浮かべた表情は提督以外の誰にも気づかれずに済んだ。


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 着任証明書を流留、そして幸に手渡す提督。二人が定位置に戻ったのを見届けると、両手でパンッと威勢のよい音を出して掛け声をかけた。

「さて、堅苦しい式はこれで終わりだ。みなさん、お付き合いありがとうございました。」
「ありがとうございました!!」
 全員周りの人それぞれに向かって感謝の言葉を掛け合い、川内と神通の着任式は締められた。

 ガヤガヤと全員声を出し始める。
 
 川内はおもいっきり背筋と腕を伸ばしてストレッチする。神通は胸に手を当ててホッと溜息をついて安堵の表情を浮かべる。那珂はそんな二人の肩を叩いて自分のほうに振り向かせた。その後二人に声をかける。

「お疲れ様、川内ちゃん、神通ちゃん!さ〜張り切って色々頑張ってこ〜ぜ〜!」
 振り向いた二人は那珂に微笑みかけた。川内に至っては那珂にヒシッと抱き着いて現在の心境を暗に伝えようとしている。那珂はその気持ちを察したのか、川内と神通の手を握りしめグイッと引っ張りお互いの顔を近づけさせた。そして3人だけに聞こえるくらいの小声で励ましの言葉をかけた。

「これでゴールじゃないからね。これから始まりなんだよ?あたしが引っ張りこんだんだから、あたしが責任持って二人を立派な艦娘にしたげる。あたしはね、川内型のあたしたち3人が揃ってこの鎮守府の裏の顔になることが狙いなんだ。」
 励ましの言葉のあとに、いきなり野望にも似た目標を語られて戸惑う川内と神通だったが、この生徒会長の言うことだからそのまま受け入れ、信じてもよいだろうとふんだ。

「裏の顔って?」川内は何気なく尋ねた。
 すると那珂は何か企んでいますよと誰が見てもそう見える表情をした。
「うん。表の顔は提督と五月雨ちゃんの二人。これはきっと今も昔もこれからも変わらないと思うの。変えてはいけないものだとあたしは思ってるのね。だからぁ、私達は裏で好き勝手やらせてもらって、二人を陰で支える最強の存在になって周りをアッと言わせてやろうと思ってるの。」

 那珂の狙いがある一つの思いにつながっているとなんとなく気づいた川内と神通。ただ今この場で深く突っ込んで話すことではないとして相槌を打つだけにしておいた。だが那珂の考えは活発な性格の川内、そして自分を変えようとして艦娘の世界に飛び込んできた神通の琴線に引っかかった。
「いいですね〜。なみえさ…那珂さんの考え、あたしは乗りますよ。面白いことが待ってそうだし!」
「……私も、どこまでもついていきます。」
 那珂は二人の反応を見て満足気にコクリと頷いた。


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 その場で各々がおしゃべりをしはじめやや収拾がつかなくなってきたため、提督は次のプログラムを発表すべく再びパンッと手を叩いて全員に促した。

「それではみなさん。今回は特別、一つの節目ということで、懇親会の場を設けました!会議室に飲み物や軽食ですが食べ物を用意いたしました。そちらに移って歓談を楽しんでいただければと思います。」
 提督の言葉に夕立や村雨は率先して黄色い声を上げて盛り上げ、五月雨と時雨も控えめながらその空気に乗る。那珂たちも提督の方を振り向いてやいのやいのと声をあげる。妙高は会議室にいる大鳥親子に伝えるために一足先に会議室へと向かっていった。それを提督は見届けた後、再び音頭を取った。

 提督を先頭に、五月雨たちや那珂たちはロビーから移動し始めた。懇親会の会場である会議室は、ロビーに一番近い部屋だ。提督は会議室と呼んでいるが、実際はオフィス用品店から長机を取り寄せて並べただけの多目的ルームといったほうが正しい。施設の広さの割には人も使い道もまだまだ不足しているため、使い切れていないのが現状なのである。

 そんな鎮守府Aの本館のとある会議室の一室で、総勢11名+αによる懇親会が催され、その日はすでに見知った者同士、初めて会う者同士、まだあまりお互い知らなかった者同士食事を取りながら交流を深め合った。