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室津 きなこ
室津 きなこ
novelistID. 61480
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ももでん! 20X3年6月

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「しゃ、社長~」
豪華な内装の電車内を、小太りのおっさんがひとり、転がるように駆けていく。


「なんだ、出立の朝だというのに、騒々しい。」
「わ、け、・・・げほげほ」
のどが詰まって声が出ない様子の男を、社長と呼ばれた人影が見やる。
「どうした。ちっとは落ち着かんか。」
「わが社はいま、RD社の攻撃を受けております!!」
「なんだと。RDはいま、攻撃の手段を何ももっておらんはずではな」
社長・・・もとい、この車輌内の称号としての「社長」が言い終わらないうちに、電車が激しく傾いだ。
「路線、封鎖されました!」
「前方2KM地点、および後方500M地点に線路支障発生!」
あっという間に照明が薄暗くなり、最後尾の方から不気味な雄たけびがひとつ、響いて消えた。


「なんと・・・」
社長はがっくりとシートにもたれこんだ。
「奴め、どんな手を使ったか知らぬが、本当にやってきおるとはの・・・」




「というわけで、先ほどRD社のターンになったとたん、例の『青っ尻』は一目散にフウジン社の車輌めがけて突進していったって寸法だ。ほぼ同時刻にU型爆撃による封鎖も確認されている。現時点ではどちらも手段不明。カード種別は現在調査中」
ところ変わって、こちらはさきほど襲撃を受けたものと、ほぼ同じような設えの電車内である。ただしこちらは室内を照らす蛍光灯も眩しく、明るい空気に満ちている。先頭車両の中心に置かれた会議用のデバイステーブルを数人の人物が囲んでいた。皆、一様に険しい顔つきを崩さない。うち一人が手をあげた。
「片桐さん!うちとしては、どうするんですか。ここは完全に圏外だからいいようなものの、同盟社であるフウジンをほっとくのは、道義に反します」
「このまえ孤立しかけた時には救ってもらったしな。いまボスが本社と連絡を取っている。」
カタギリと呼ばれた男は能吏っぽい細縁のメガネをつい、と押しやって言った。


「詳細、出ました」
テーブルの隅で一心不乱にキーボードをたたいていた小柄な女性がそう言うやいなや、デバイステーブルに地図が浮かび上がった。北海道、本州、四国、九州から構成された極東の島国、日本列島の全貌である。その地図の1点が、音もなくズームアップされていく。
「フウジン社は現在日向を出て2駅北の土々呂駅に停車中。先日のルーレットで次回目標駅が萩駅となったので、現在糸魚川駅停車中のRD社が最遠方ということになる予定でした」
RD社のステータスが地図の上にオーバーラップする。


「手持ちは新幹線1枚、急行3枚に、あとクズが少々。攻撃系の手段はないとみていましたが、フウジン社からの情報によると、地方通せんぼカードによる封鎖と、少なくともキングデビル1体を確認しているとのことです。可能性としては、停車したカード駅で得たばかりのカードを直決裁したか、雑種カードの中で変化系をうまく引き当てたか」
「いずれにしても、あまり現実的な想定にはならなそうだわね」
「あ、社長」
声の主はハイヒールのかかとを鳴らして上座へ着いた。
「小沼、最後まで報告して頂戴。そのあとまとめて話すわ。」
「はい」
コヌマと呼ばれた小柄な女性は歯切れ良い返事を返し、ふたたび手元のデバイスに目を落とす。
「・・・以上の状態から鑑みるに、フウジン社が今後受ける被害は毎月の1億近い負債及び、ボンビー被害、加えて今クールの優勝争いからの離脱ほか。現在のフウジン社の順位から鑑みるに、今期での離脱は避けられない状況だと言わざるを得ません」
「えげつねえな・・・」
スーツ姿の若い男が、そういって眉間に盛大にしわを寄せた。このゲームに係る人間ならだれでも、最遠方になるということがどういことなのかは、嫌というほど分かっているのである。報告を終わったコヌマがデバイスをテーブルに置くと、連動してホログラムが消えた。皆の視線が一斉に社長・・・今日のスーツはまた一段とスリットが大きく入っている・・・に集まるのを待って、彼女は口を開いた。


「さきほど本社から正式に指示があった。これより我が社はフウジン社の被害を最小限に食い止めるための作戦を展開する。作戦期間は今クールいっぱい! 我が社が致命的な被害を受けない限り、手段は問わない。」
そこまで一息に言ってから、社長は唇を湿らせ、二の句を継いだ。
「こういうえげつないことする輩は、さっさとぶっつぶしましょう。」