アンリミテッド
あれ程にも恐れた影!虚無の闇は、私の恐れも希望も罪も、何もかも全て等しく飲み込んだ。襤褸のように擦り切れて狂うのを待つばかりだった精神も、過去のものだった。
素晴らしい気分だった。私が手に掛けた罪なき少女も、あの染料の匂いの染みついたロンドンの暗い地下室も。まさにこの時病の床で尽きようとしている、私と血と魂とを分けた命のことさえも。
全ての憂いから解放され、生まれて初めて心の底から私は自由だった。光と闇、善と悪、生と死、それらの間に大した違いなど存在しないのだと私はようやく理解した。
彼への復讐心もとうに失せていた。机の上の震える字で書かれた自分自身の走り書きを見ても、何の感情も湧いてはこなかった。
ただ一つの強い意識が私を支配していた。
彼の元へ、オーブの元へ行かねばならない…。
それはすでに私の意思なのか、オーブを守る者の意思なのか分からなかった。
私は封印が解かれた至聖所へと向かって再び歩みを始めた。
アレキサンダー。それでもまだあなたの名に私の心は、わずかに残る感情の残滓は打ち震える。
自らの願いの為に多くの命を奪い続け、私を壊し、裏切った。救いを求めた以上に私は彼に傾倒し、彼はそれを利用した。真実私を憐れみ、同情し、慰めを与えようとすらした男は同時に何の良心の呵責も覚えてはいなかった。何百年と生きる老獪な男にとって、愚かな若者の心を支配するのは何と容易いことであったか!
…けれども、と私は思う。けれどもアレキサンダー、あなたが私の知らない面影を胸に思う度に何度も引き裂かれた心のことは。果たしてあなたは知っていたのだろうか?
影はオーブに近づくにつれて高揚し、歓喜の叫びを上げ、城を覆い尽くした私が鳴動した。
影は恐怖の匂いを辿る。今の私には彼の恐怖が手に取るように分かる。彼にも影の訪れがはっきりと分かっているだろう。まだ人であった時の表現で言うのなら、私は笑っていた。
鷲の紋章の描かれた扉の前に私は立った。扉の向こうに彼がいる。
気の遠くなる程の犠牲と忍耐の果て。成就を目の前にしながら願いが潰える瞬間の絶望は、一体どれ程のものであるだろう。
でも何も心配しなくていい。きっとあなたにもすぐに嘆きも恐れも必要ないのだと分かるだろうから。私達は一つになれるのだ。
「今行くよ、アレキサンダー」
これから永遠を共にしよう。