また明日
もう、あと5歩ほどで。
瞳は真っ直ぐにその人を見て、気持ちはそんなこと気にせず、今この時に集中していたかったけれど。
それでもやはり、その時が気になってしまう。
もうすぐ、この人の家に着いてしまう。
ああ、今、もう。
「送ってくれて、ありがとう」
『沢田』と書かれた表札のかかった門の前で、綱吉は獄寺に向かい直ってそう言った。
「いえ、当然です!」
思わず獄寺はビシッと直立不動の姿勢をとり、敬礼でもしそうな勢いでそう返した。
反射的にそう返してはいたが、その言葉に「もうお別れだ」と思うと、胸を寂寥感が駆け抜ける。
今までずっと一人だった獄寺にとって、目の前のその人が、初めてできた大切で、誰よりも守りたい、共にいるべき人だ。
それでもまだ二人は学生で、正式にファミリーではなくて、いつでも一緒にいれるわけではない。
獄寺としてはそれこそ寝食を共にし、常にお守りしたかったが。
・・・いや、お守りしたい、なんて都合のいい言い訳で、本当はただ、傍にいたいのだ。
誰よりも強く優しい、大切なこの人の。
思わずきゅ、と拳に力が入る。
真っ直ぐ見つめてくる獄寺の、そんな思いなど知らず、綱吉は小さく笑った。
「また明日」
途端、獄寺の心に、春風でも吹き込んだような喜びが湧き上がった。
明日をも知れない、孤独な身だった獄寺に、綱吉はそれとは知らず、いつも、先を約束してくれるのだ。
「はい、また明日!」
途端笑顔になり、ぶんぶんと大きく手を振って見送る獄寺に手を振り返し、綱吉は玄関の扉を開けて、家へと入っていった。
完全にその姿が扉の向こうへ消えてしまうと、獄寺は左右に振っていた手をとめ胸元にまで下ろし、心の中でさきほどの綱吉の言葉と笑顔を繰り返す。
『また明日』
それは魔法のように、獄寺に喜びと幸せを与える。
『また明日』
また明日会える。
明日もこうして、共に過ごす時間がある。
あの笑顔を、間近に見つめる事ができる。
それは獄寺にとって何よりも幸福で、心を満たす未来だった。
そしてそれを与えてくれた綱吉を、お守りせねば!と気持ち新たに誓い、使命感に燃えるのだ。
身震いしたくなるような思いを抱え、獄寺は胸元にまで下ろした手を、もう一度拳に握った。
今度は寂しさや辛さではなく、その暴れだしそうに胸を締め付ける、暖かで熱い想いを抑えるために。