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カレーの日

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カレーの日

その日、シャアが総帥府から帰邸して二人が安らぐ為に作った自室へと入ると、そこは香辛料の香りに満ち満ちていた。
「???」
(この香りは確か・・・)
「あっ! シャア。お帰りなさい」
「ああ、ただいま、愛しいアムロ」
シャアはそう言うとアムロを抱き寄せていつものように旋毛に唇を寄せたのだが、アムロの髪からは香辛料の香りしかしてこなかった。
「アムロ?」
「ん??」
「この香りは・・・」
「ああ。カレーを・・・」
「カレー??」
「うん。作ってみたんだ。食べてくれる?」
「君の作ったものなら食べないという選択肢などありえないのだがね」
「??」
「何故、カレーを?」
「カミーユがね」
(あの、修正小僧が? また、よからぬ事を企てて、アムロにそうと気付かせぬまま遂行させようとたくらんだのではなかろうな?!)
「カミーユが、どうかしたのかね」
「旧世紀のアニメーションをいくつか送って来てくれたんだよね」
「・・・」
「でね? その中の作品で、貴方そっくりな声をしたキャラクターが、寸胴鍋でやたらと煮込み料理を作っては、お隣のお宅訪問の口実にお裾分けと称して持ち込むんだよ。で、そのシーンの中でカレーを、登場した子供達が美味しそうにぱくついているのを見たら、僕も作って貴方に食べさせたいなぁって・・・」
「それで作ってみたと?」
「うん。色々入れてみたんだよ?」
(色々??)
シャアはレンジに置かれている(この自宅スペース内で見た事がない)寸胴鍋の中を覗いてみた。
そこには、原形を留めないまでに煮込まれた食材が、混然一体となって黒に近い茶褐色のルーの中に入っている。
「因みに、何を入れたのかね」
「えっと、ジャガイモでしょ。ニンジン、タマネギ、お肉は執事さんが持ってきてくれた豚肉の煮込み用にカットされたもの」
(ここまでは、普通だが・・・)
「それと、体に良いからきのこ類でしょ? セロリにブロッコリー、リンゴに黒酢」
「黒酢??!」
「隠し味に良いってチョコとニンニク、山椒、ジンジャー、・・・」云々
その後もアムロは延々と食材を口にしているのだが、既にシャアの耳には入らなくなってきていた。
アムロがシャアを元気にしようと心を込めて作ってくれたのは解るのだが、途中からカレーに入れなくても良いであろう食材の名称が羅列され始めたからだ。
(ゼーダ・・・。何故お前が監視してくれなかったのだ。アムロが作ってくれたものなら、誰にも分けずに完食したいと切望するものを!!)
シャアは執事に心の中で苦情を述べていたので、アムロが制作過程を言い終わった事に気付くのが遅れた。
「シャア・・・」
「ん? どうした?」
「ごめんね・・・」
「? 何故君が謝るのかな」
「変なもの、作っちゃったんだね?僕」
「何故?」
「だって、眉間に皺・・・寄ってるもの」
「いやっ!! これは、先ほどまでの会議の事を思い出したからであって、君の料理について不快に思っているとかではないのだよ」
「うそ!」
「嘘ではない!!」
「僕を欺けると思ってるの? 貴方の思念を感じ取れないとでも?」
「君のNTとしての能力を軽んじるつもりなど毛頭ないが、今の君の判断は間違っている」
(さすが、最強のNTとスペースノイドから称されるだけあるが、今回だけは嘘を貫かねば!)
「さぁ、君の手料理を食べさせてくれるのだろう? 私の為に作ってくれたのだから」
シャアはそう言うと、軽い足取りでテーブルにつき、アムロに夕食を運んでくれる様に促した。
アムロはと言えば、いささか釈然としない表情を浮かべていたのだが、シャアがテーブルについてしまったので、お皿に地球のミライ・ノアから送られてきた白米を炊いたものを半分までよそうと、寸胴鍋からカレーを掬ってかけた。
カトラリーと一緒に、冷水の入ったグラスも添えられる。
「ありがとう。ん~。食欲をそそる香りだ」
シャアはそう言うと、スプーンでライスとカレーを山盛りにして口に運んだ。

正直、気分は秘境探検家の心境ではあったのだが、口内に広がった香りと味は、予想に反して美味なものだった。

シャアの片眉がピクリッと上がる。
そして、口にしない方が良かった言葉を、つい、無意識に発してしまったのだった。

「おい、しい。・・・・不思議と、おいしいよ。アムロ」  と


「・・・・・・ふしぎ??」

アムロの言葉の後に、シャアの身体が押しつぶされるのではないかと感じる程のプレッシャーが発せられたのは言うまでもないであろう。


 それから一週間強にわたりアムロはシャアに口をきいてくれなくなり、ネオ・ジオンの行政と軍事が滞ったのは、シャアの自業自得と言えよう。




*宇宙世紀最強のNTを騙せると思ってはいけません。阿保総帥!  by N・M

2017.01.21
作品名:カレーの日 作家名:まお