5 15の決断Ⅱ
「ほれ、食べろ」
アレクセイが朝食の食卓に並んだレバーペーストをユリウスの方へズイと押しやる。
「いや…これ嫌い」
ユリウスはアレクセイが押しやったレバーペーストをアレクセイの方へ押し戻す。
「ば~か~た~れ~~。お前がイヤでも、その腹の―俺の子供が欲しがってるんだよ。ホレ、食え!」
そう言ってアレクセイは薄く切った黒パンにレバーペーストを乗せると、ユリウスの口元に持って行った。
そこまでされたら、そしてお腹の子供を出されたら、ユリウスもそれ以上拒否するわけにもいかず、アレクセイが口元に差し出したレバーペーストの乗ったパンを嫌々口に入れ、それを紅茶で飲み下す。
「よ~し、いい子だ」
アレクセイが、金の髪を結わずに背中に自然に流しているユリウスの頭を昔のようにクシャクシャと撫で、白く柔らかい両の頬を親指と人差し指で軽くつまんでプニプニと揺すった。
「じゃあ、俺は仕事に行ってくるから。腹の子労わって無茶するんじゃないぞ。―アルラウネ、こいつの事よろしくな」
「まかせて」
紅茶のカップをゆったりと口に運びながらアルラウネが請負う。
アレクセイはアルラウネの両頬に、そしてそのあとユリウスの両頬と額にキスをすると、仕事に出て行った。
アレクセイが出て行ったあと、アルラウネは別室でタイプを打ち始めた。
ドアを隔ててタイプライターの音が聞こえてくる。
自分の妊娠が発覚して以来、なるべく外へ出る活動を控えて自分についていてくれるアルラウネ―。
本当はやりたい事―、やらなくてはいけないことが彼女にもたくさんある筈なのに…。
そんな事はおくびにも出さず、自分の傍にいてもやれる仕事を選び黙々とこなすアルラウネに対して、感謝と共に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
― ぼくにも…今のぼくにも何か役に立てることがあったら…。
ユリウスは上着を羽織り部屋を出ると、タイプを打っているアルラウネの横に立った。
ユリウスの気配を感じたアルラウネがタイプの手を止める。
「ん?どうしたの?」
「あの…アルラウネ。…あのね」
―ぼ…わたしに、タイプを教えてください。今あなた達の役に立てることをしたいんです。お願いします。
そう言ってユリウスはアルラウネに頭を下げた。
アルラウネはそんなユリウスに
「いいわ。ただし根の詰め過ぎはだめよ。さ…ここに座って。まずは…」
そう言ってユリウスをタイプライターの前に座らせた。
作品名:5 15の決断Ⅱ 作家名:orangelatte