16 Team
「ありがとう、お言葉に甘えて飲ませて来ます。でもすぐ戻りますから、また続きをタイプします!」
「いいんだよ、ずっとおぶったままで疲れたろ?おまえさんたちがあっちで昼寝してる間、俺らもタバコ休憩できるしな」
「わかりました、ありがとう!」
「ああ、ゆっくりしてきな!」
〈ミーチャをおぶったユリウスがいる部屋ではタバコを吸わない〉これはいつの間にか、むさ苦しい男たちの間に浸透していったこの支部での暗黙のルールだった。
ユリウスがこの支部に来て3か月ほど、当初は彼女の決意を「甘ったれた幻想」「眉唾物」などと内心思っていた同志は少なくない。
しかし、乳飲み子を抱えながらも精一杯働き、夫やその兄の名に恥じない革命家になるべく、日々学び努力する健気な姿にいつの間にか誰もが心を打たれ、優しい眼差しを向けるようになっていた。
そして何かあれば手を差し伸べるようになっていたのだが、かと言ってそんな人達に甘えすぎることなく懸命に生きる姿はますます人を惹きつけ、日毎周囲との信頼関係は強くなり広まっていくのであった。
「しっかし、すごいコだよなぁ・・・最初は三日も持たんと思ったけどなー」
「アレクセイの奴、亡命先で女引っ掛けて連れて来るなんざ所詮貴族のボンボンの道楽くらいに思ってたけどよ、あいつ女見る目あるわ!」
「さぞかしシベリアで気を揉んでいるだろうよ・・・幼な妻が乳飲み子抱えてこんな世間に投げ出されてさ。うん、奴が帰るまでは俺達がユリアと坊主をしっかり守ってやらなきゃな!」
「おう!でもよ、この分だと奴が帰る頃にはユリアは相当なボリシェビキの女闘士になりそうじゃね?奴より出世してたりして?」
「ハハハ!俺達もうかうかしてらんねーなー、仕事仕事!」
「ん?ザハロフ、ユリアのタイプ席で何やってんだ?」
「・・・みーっけ!うひょー、あのコの金髪2本ゲット~」
「・・・おまえ、アレクセイがいたら半殺しだぜ?」
「大丈夫さ~なんたって、金髪好き同志だからな~俺ら!」
――クンクン・・・
ザハロフはその匂いを確認し、さし込む日にかざしひとしきり満足すると、ポケットから取り出したハンカチに恭しくのせ丁寧に折り畳みポケットに戻した。
「・・・・・」
一同一斉に首を横に振りタバコをもみ消すと、休憩は終了したのだった・・・。
作品名:16 Team 作家名:orangelatte