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冬の過ごし方

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「にのくーん!」
「わぁ!」
声がだんだん大きく聞こえてきたかと思ったら後ろからどすんとタカ丸さんがやってきた。
後ろから急にぎゅうとされたのも驚いたけどタカ丸さんの体が冷たいことにもっと驚いた。
今は冬だから寒い。ぼくの体も冷たいと思う。でもタカ丸さんの体はもっと冷たい。
「あーあったかいなー」
そんなことをいいながら肩に頭をすりすりしてくる。髪の毛が頬にあたって少しくすぐったい。
「タカ丸さん、冷たいですね」
「うん、もうね、冬はダメ、全然ダメ」
寒くって動けない、だから甘酒欲しかったのにー今度買ってこようかな。もしょもしょ耳元で話すものだからくすぐったくて仕方がなくって一生懸命我慢していたらやってきた三郎次先輩に空気と同じくらい冷たい目で見られた。
「…なに、してん…ですか」
一瞬なにしてんだって言おうとしてしまったに違いない。不自然な敬語をひっこめて変なものを見つけてしまったような感じで遠巻きに近づいてくる。目的は多分ぼくらの後ろに置いてある火薬壷なんだろう。
「今日は寒いでしょ?こうやってるとね、あったかいんだよー」
うん、確かにあったかい。最初はびっくりしたけどタカ丸さんとくっついている背中とか肩とかぽかぽかしてる。
「というわけで、ろじくんも一緒に」
「結構です」
…せめて最後まで言わせてから言った方がいいんじゃないかなぁなんて考えていると、後ろでタカ丸さんがにぃと笑った気がした。三郎次先輩の顔がこわばって喉がひ、と小さく声を上げた。
こういうときのタカ丸さんは普段からは想像つかないくらい速い。ぼくは見たことないけど辻刈りやってたころはこんな感じだったんじゃないかなって思う。今一瞬の間になにが起こったのかよくわからなかったけど、そんな速さで三郎次先輩をしっかとつかまえるとずるずる引っ張りこんでいた。
「まぁそういわず、あったかいよー」
「嫌です嫌です、やめてください!」
三郎次先輩もいい加減タカ丸さんのけいこうとたいさくとたいしょほうほうを覚えればいいのに、いまだにがんばって抵抗しようとしているところが先輩らしいなと思う。そうして抵抗むなしくぼくと同じようにぎゅうとされておとなしくなったところに、タカ丸さんがすごく優しい声で「ほら、あったかい」なんて言うからずるいと思った。ちょっと母ちゃん思い出すじゃないか。さみしい気分になりかけたので頭をちょっと振って、三郎次先輩大丈夫かなすごく怒ってるんじゃないかなとか思ってこっそり覗き見てまたびっくりした。顔が赤い。こういうの慣れてなくて照れてるのかな、それともぼくと同じように母ちゃんのこと思い出したのかな、すっごく真っ赤だ。普段そんな態度じゃないからすっごく珍しいものを見た気分になって、でもきっとこういうの見られるのも絶対イヤな人だから慌てて顔を戻す。
ぼくはタカ丸さんの右腕に囲まれて、三郎次先輩は左腕に囲まれて、背中はあったかいし肩はあったかいし三郎次先輩もいつもの憎まれ口は潜めておとなしいし、なんだか兄ちゃんがいっぱいいるような気になって心もあったかくなってくる。
「おまえら…」
そうしてほこほこしていたら入り口の方から低い怒りを抑えた声に心臓がどきりとした。
なにをくっついて固まっているんだ、在庫確認は終わったのか、終わったのなら報告に来い、遊んでるんじゃない。準備していたかのように出てきたお小言に三郎次先輩はしゅんとなる。ぼくはタカ丸さんと二人してえへへ、と笑ってごまかしたけど久々知先輩は真面目な方なのでごまかしきれなかった。
でも久々知先輩も寒そうだ。鼻の頭も少し赤いし手なんか真っ赤になっている。がみがみと久々知先輩のお小言を受けながら上を見るとタカ丸さんと目が合った。そしてにっこりと微笑まれる。あぁやっぱり気付いたんだ。タカ丸さんはこういうところで意外に聡い。
久々知先輩も三郎次先輩と同じようにこういうのが苦手な方だ。いっしょに暖まりたいです、と言っても呆れた顔して素通りされるのは目に見えている。どうするつもりなんだろう。なんて思っていたら立ち上がったタカ丸さんにひょいと抱き上げられた。
「先輩にもあったかおすそ分けしたげて」
こっそりと耳打ちされた内容にえぇ!と思わず不満の声をあげてしまったけど、どうにもタカ丸さんのお願いには弱い。覚悟を決めて前を睨む。
「聞いているのか、おまえら!」
「くくちくーん」
叱りの声と先輩に呼びかける声が重なる。ごー!小さい気合の声と共に、きょとんとした久々知先輩めがけてぼくはぽーいと放り投げられた。
「うわ!」
ぎょっとした顔の久々知先輩が近づき、どしんとぶつかった。最後は目をつぶってしまったのでよくわからなかったけど、あんまり痛くなかったので久々知先輩が上手く受け止めてくれたのだとわかった。
「タカ丸さん、やっぱちょっと怖かった!」
言うだけは言わせてもらおうと叫んだら、ごめんねぇ。めちゃくちゃだ。タカ丸さんののんきな声と、三郎次先輩のぼやきが聞こえた。そして肝心の久々知先輩は受け止めてくれたものの、その後の反応がない。不思議に思って顔を上げてみる。
「先輩、固まってる」
苦手な方だとは知ってはいたけどここまでとは思わなかった。
「ほほう、それは面白い」
タカ丸さんの不穏な台詞と三郎次先輩の慌てたようなタカ丸さんを呼ぶ声が聞こえたけれど、後ろのことなのでよくわからない。
「追撃!」
「ぎゃあ!」
「うあ!」
そんな声と同時にどすん、と何かがぶつかった感じで一瞬さっきより苦しい。気がつけば久々知先輩を下敷きにぼくと三郎次先輩とタカ丸さんがだんごみたいに重なっていた。
「た、さ、斉藤!どけ!離れろ!」
「いやですーもうちょっとあったまるー」
もがもがもがきながら暴れる先輩をいなしながらタカ丸さんはみんなが苦しくないようにうまく寄せてくれる。いつの間にか久々知先輩を中心にぼくと三郎次先輩とタカ丸さんがぎゅ、とくっついた形になっていた。
そうしているうちにだんだん暖かくなってきて、だんだん嬉しくなってきて、さっきみたいに心もあったかくなってきた。タカ丸さんの優しい声が聞こえてくる。

にのくんあったかいね。
ろじくん手冷たいね。
久々知くんも体が冷たくなっちゃってるよ。
もちょっとあったまってからまたお仕事がんばろうね。

久々知先輩と三郎次先輩からは返事がない。しょうがないからぼくが大きく返事をした。
結局火薬委員会の人たちはみんなタカ丸さんに甘いんだ。だってその証拠に、誰一人離れようとしないんだから。
作品名:冬の過ごし方 作家名:鳶城どっこ