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46 脱獄前夜

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1911年明けてすぐー

この所、議案不明の会議が増えている。
ごく限られた党員がどこからともなしに会議室に集まりミーティングを行なっている。

ー 荒事かな…。

勤続も6年目になると、そういうときの会議が、担当していない支部の人間にも極秘のやばい任務ー、例えば強奪、密輸、それから同志の脱獄…であるという事がユリウスにも経験上分かってきた。

そういった話し合いは、万が一の機密漏洩に備えて作戦に関わる当事者だけで行なわれるのが常であるが、今回の作戦は、どうやら外部の党員以外の協力者も加わっての、大規模な作戦になるようである。

ユリウスも先日、その協力者ー、公爵家令嬢でヴァイオリニストのアナスタシア・クリコフスカヤ嬢にマネージャーとしてヨーロッパツアーに帯同する同志の偽造パスポートを手配したばかりだった。

ー ヴァイオリニスト…か。

ユリウスの脳裏にふと、離れ離れになって久しい夫の顔と、彼の弾くヴァイオリンの音色が掠める。

ー 何にせよ…、なるべく犠牲者が出なければいいけど。…双方に。


ユリウスは書類を片すと、デスクを立った。

「お先に失礼します」

「おーう。お疲れ!悪いなユリア、リザに今日は遅くなると伝えといてくれや」

「はい。分かりました」

ユリウスは外套の前を掻き合わせ事務所を後にし、ミーチャを迎えに足早にイワノフ家へと向かった。

まだまだ、春は遠い。
ユリウス、22歳の冬。
夫がシベリアへ送られて6年目、当時生まれた息子は、6つになっていた。

そしてー、彼女も知らぬところで、ごく秘密裏に、しかし着実に、アレクセイの脱獄計画は進んでいた。
作品名:46 脱獄前夜 作家名:orangelatte