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エンド・ソロウ

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生き方は、生まれた時から決まってた。多分。
 それでも、大切なものだけは自分で選び取った、そう思いたかったんだ。



エンド・ソロウ




「覚えてる?わたしがニーノに、お嫁さんにしてほしいって言った事」

 待ち合わせ。いつもの窓際の席。
 リンゴのケーキの先端をフォークで軽く突つきながら、珍しくロッタはケーキの感想よりも先に、そんなことを切り出した。
 チョコレートパフェを掬う手が止まる。彼女の真意をはかりかねて、視線だけで先を促した。「急におもいだしたの」と、花のように笑って、ロッタはひとくち分のケーキを頬張った。

「子供の云うことなのに、あの時ニーノ、ものすごく真面目な顔して、それはできないんだ、って。わたしは幼すぎて、その言葉の意味に気づかなかった」
「…子供の頃だろうと、大切なロッタの云う事だ。茶化すようなことはしたくなかったのさ」
「うん。自分の素性とかニーノの立場とか知って、ニーノがそばにいてくれるのはお仕事だからなんだって、わかった」
「、それは」

 否定しようとして、やめた。できるはずもない。それは紛れもなく事実で、そのことが余計に自分自身を苛立たせる。
 そんな俺を見てロッタはきょとんと瞳を瞬かせたあと、なんでもないことのようにまた屈託なく笑った。

「なんて顔してるの。責めたいわけじゃないのよ?」

 知らず、肩に力が入っていたのがわかる。息を吐くついでにコーヒーを口に運ぶと、ロッタはわざと俺を見ないふりをして残りのケーキを平らげていた。

 これじゃあいつもと逆だ。でもこれは罰なのかもしれない。だって俺は、ジーンとロッタのそばにいることを生まれたときから義務づけられていて、そこに「二人がどんな人間であるか」なんてことは問題じゃなかった。たとえば、ふたりがどんな悪人であったとしても、俺の仕事と生き方は、何一つ変わらなかっただろう。気づいていて目を背けていた事実を、あろうことか無垢なロッタに暴かれてしまった。
 いや、無垢だと思っていたのは俺だけだったのかな。いつの間にこんなに大人になっていたんだか。

「わたしが言いたかったのはね、」

 空になった皿にフォークを置いて、ロッタは視線を窓の外へ向ける。シュネー姫によく似たその横顔は、俺が知っているロッタよりも随分と大人びて見えた。

「本当はニーノがわたしを断ったのはお仕事のせいじゃない。ニーノの中にはわたし以上に、お兄ちゃんがいたからよ」

 今日のロッタは俺の手を止める天才なのか。俺は一口もパフェを口に運ぶことができないまま、同じように視線を窓の外へ移す。風に乗って微かに飛んできた煙草の香りの先に、見慣れすぎるほど見慣れた金色が見えて、俺は観念したように苦笑した。

「幸せにはさ、…してあげられないと思ったんだ」

 誰を、とは言えなかった。たぶん、すべてを。ロッタのことも、ジーンのことも、もちろん自分のことも。

 そんな資格ないと知っていたし、そう思う気持ちさえも任務の妨げになると知って蓋をした。
 ロッタの云うようにジーンを特別だという気持ちに気づく度、それが任務への忠誠心なのか、長く見守り続けてきたことへの情なのか、あるいはまったく別の感情なのか、わからなくなって、いつしか考えることをやめた。自分がどう思おうと、自分とジーンの関係性は変わらないからだ。良くも悪くも。

「ニーノはお仕事に真面目すぎるの。もう少し、自分に正直になったらいいのに」

 ジーンが聞いたら唖然としそうなことを、からりとロッタは口にする。人の領域に入り込んでくるようでいて、不快じゃない。やっぱりシュネー姫に似てきた、と思ってしまう俺は、こんなときまで任務のことしか考えていなくて、これがロッタの云うところの「真面目」ってやつなのかもしれないが。

「いつのまにか、ロッタはいい女になってたんだな。惜しいことをした」
「ふふ、そうでしょ」

 道路の向こう側に立つジーンは、こちらには気づかずに局員と話をしながら変わらず煙草を燻らせている。いや、あの男が気づかない筈はないので、俺達の邪魔をしないようにしているつもりかもしれない。自分の話をされているとも知らずに。
 同じように俺の方を見ないまま、ロッタは穏やかな笑顔を浮かべている。ああ、本当に勿体無いことをした、と思いつつも、俺の心は不思議と晴れやかだった。

「結局のところ、わたしたちはふたりとも、お兄ちゃんがいちばんなの。たぶん、だから分かったんだよ」

 ニーノの気持ち、と付け加えて、ロッタはこちらを振り返った。敵わないな、本当に。
『二人が悪人だったとしても、見守り続けた』? そんな仮定に、もう何の意味もない。俺はたぶん、今のままのジーンとロッタだから。


「幸せには、たぶんしてあげられない。だけど、どんなことがあっても…、」

 言葉を切って、もう一度道路の向こうのジーンを見る。ひとりになったジーンが、ゆっくりこちらに青い視線を向けた。


「…そばにいて、見守るよ」

 ずっとそうしてきたように、これからも。
『生きたいように生きていい』と、あの人には言われた。ふたりのそばにいることは、もはや俺の任務ではないのかもしれないけど、
 それならきっと、ここから先が、自分の気持ちなんだ。ずっと蓋をし続けて、任務の影に追いやってきた、自分の。
 
 息するようにそばにいて、彼を想う。置き去りにしてきた自分の気持ちをやっと拾いあげてくれたロッタに、誓うようにそう告げると、満足そうに笑ってくれた。
 雁字搦めになっていたお互いの過去も、素性も、関係ないと笑い飛ばせるほどの時間を、ここからまた積み上げていこう。


 通りを渡って近づいてくるジーンに軽く手を上げ、ロッタとふたり立ち上がる。
 ショーケースに並ぶリンゴのケーキを自嘲気味に見つめることは、もうなかった。





作品名:エンド・ソロウ 作家名:和泉