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熱力学第一法則

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「寒い……」
今日何度目になるか分からない言葉を呟き、がくぽはコタツに突っ伏した。

今朝の天気予報では今日はこの冬一番の冷え込みだと言っていた。そしてこの家のエアコンは二、三日前から調子が悪く、修理業者が来るのは今週末だった。 

「やっぱり冬はコタツでアイスだよね!」
「この寒いのに……」
がくぽはカップアイスを口に運んでいるカイトを、信じられないというような目で一瞥し、それだけ言うと再び突っ伏した。

いつもの凛とした佇まいはどこへ行ったのか。朝、マスターの前ではまだ普段通り振る舞っていたのだが、二人きりになった途端がくぽは愚痴をこぼしながらずっと背を丸めていた。

極端な暑さ寒さが身体の負担になるのはボーカロイドも人間と同じだから、ボーカロイドも過ぎた気温を不快に感じるように作られてはいるが、人間と比べると寒暖に対して鈍感だ。個体差はあっても極端に寒がりだとか暑がりだとかは本来ない。実際、カイトもこの程度の寒さはちょっと冷えるなとしか感じないでいる。
しかし何故なのかはよく分からないが、がくぽは寒さが苦手だ。

マスターに設定をいじってもらったらどうかと言ったこともあるが、生命活動の維持に関わるようなシステムの変更は面倒な手順が必要らしく、別段すぐに困る事でもないので、結局うやむやになってしまっている。

「うーん、そんなに寒い…?」
カイトは、あまりに寒そうにしているがくぽを見かねて話しかけたが、無視された。寒いと機嫌も悪くなるようだ。
カイトはアイスクリームの最後の一口を口に押し込むと、温かいお茶でも淹れてきてあげようと立ち上がった。

台所でお茶を淹れて戻ると、がくぽはカイトが離れる前と同じ姿勢のままでいる。
「うう~…早く暖房が直ると良いのに…」
がくぽは肩を縮こまらせながら、カイトが淹れた茶を啜った。
「土曜までの辛抱だって」
「あと二日もある…」

見るとがくぽは置かれた湯呑みで指先を暖めていた。
色が変わっている指先は見るからに冷たそうで、実際辛いのだろうけれど、カイトにその感覚はやっぱり良く分からない。

好奇心で、手を伸ばしてがくぽの手に触ってみた。
「うわ、冷たいね」 
触れた途端、予想以上の冷たさにびっくりする。
「カイト殿は温かいなあ」
おお、とがくぽは意外な発見をしたとでもいうような顔をし、身を乗り出して両手でカイトの手を握り返してきた。

「同じボーカロイドで何故ここまで違うのだ…解せぬ」
「いや、変わっているのは君の方だと思うけど……が、がくぽ?」
何の前触れもなく、がくぽは握ったカイトの手を取ると、ぴたりと自分の頬に寄せた。
「温かい」
気持ちよさそうに目を閉じる。

カイトを掴む手も頬も、やっぱり冷たい。
逆にカイトの頬は熱かった。
「カイロ代わりにされても困っちゃうんだけど…」
「や、これは相すまぬ、つい」
気恥かしさを悟られないよう、冗談めかした言葉でやんわりと手を払うと、何の名残もなくすぐに冷たい手は離れた。

「やっぱりマスターに頼んでどうにかしてもらった方がいいんじゃないの」
「主殿もお忙しい方だから…」

がくぽは再び湯呑みに指を当て暖め始めた。
そこで会話が途切れ、何となく手持ち無沙汰な気分になって、カイトがテレビを付けると、天気予報が今夜は雪になるかもしれない告げていた。

がくぽに熱を奪われ片方だけ冷えてしまった手に触れながら、今日の晩御飯はがくぽの為に温かい鍋にでもしようかなとカイトは考えていた。


君が望むなら、この体の熱の全部だってあげて構いやしないけど、まだその方法が分からないんだ。
作品名:熱力学第一法則 作家名:あお