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ひまっくす
ひまっくす
novelistID. 61093
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訪れ

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急げ!急げ!
僕は内心焦っていた。今すぐに僕の助けを必要としている人がいるのだから。
一秒でも早く現場へ駆けつけようと、全力で飛んでいた。
飛び慣れたソドー島の空。眼下に見下ろすは働く蒸気機関車たち。
僕はこの景色が何よりも好きだった。人間になるまでは。

僕たち、ソドー島で働いている心のある乗り物全てが、ある日人間になった。抵抗なんてできない速さで島中全てが「人」で溢れた。

僕は人間になってとても後悔している。空が、遠いから。
あんなに近くて心地よい空に両手を伸ばすような、感覚を味わえなくなってしまった。代わりに風も匂いからも隔離された操縦席で、速さだけを感じている。それがとても苦しく感じる。

そうこうしているうちに現場へ、近づいてきた。僕は辺りを見回す。
ちょうど空き地になっている、着陸できそうな場所を見つけた。
僕はその場所に着陸しようと準備をした、が。
事故が起きた。ヘリコプターにはあってはならない、墜落事故。
地へ堕ちる。それだけ思って僕は気を失った。

―――――――――――――――――――――――――――――


「痛・・・」
ヘリコプターの頃は、痛みなんて感じなかったのに。
「おや、そこにいたんだね。」
優しい声がした。たまらなく、ふり返る。
「ヒロじゃないか!僕に何か用事かい?」
「用も何も、君はここで墜落したじゃないか。探しに来たんだよ。」
「ああ、そうだったね。僕のせいで混乱と遅れを招いてしまったね。トップハム・ハット卿はカンカンに怒っているかい?」
「そりゃあ信頼を置いている君が事故を起こしたんだ。怒りよりも悲しみの方が優っているんじゃないかな。」
「そう、だね・・・」
僕は力なく返事をした。
「・・・ところでハロルド。」
「なんだい?」
ヒロの顔を見上げる。
「君は、アメリカ出身だね?」
彼の目は真剣だ。
「私は日本出身なのは知っているね?」
嫌な予感がした。
「私たちは戦争をした。」
目線から、逃げられない。
「遠まわしに言うのはやめよう。はっきり伝えるよ。
私は、君が憎い。」
まるで氷を丸呑みしたかのように僕の全身は凍てついた。
彼の声は、優しいものではなくなった。


「ハロルド。いや、シコルスキー。私の国は君たちに攻撃されたのだ。私の、美しかった国を。」
僕は戦争には直接関わっていない。元々救護として活動していたから。
しかし彼は、その事実すらも拒むかのように僕を見据えている。

「僕は・・・」
情けなく、僕は泣いた。怖いのだ。しかし怖いのはヒロではない。
彼の故郷に対する執着に恐怖を抱いたのだ。
「僕は、君のこと、憎んでなんかいないよ。」
言葉が出た。彼の眉がピクリと動く。
「敵ではあったけど、君のことは―――!」
「ありがとう」
いつもの優しい声に戻っていた。
しかし、目だけは相変わらず僕を刺すように鋭い。


僕は、その目に、何を伝えようとしていただろうか。


ヒロと僕。それはいつの日かの闘いの続きであるような。
風が戦いだ。季節は初夏。今日も絶好のパトロール日和だ。
作品名:訪れ 作家名:ひまっくす