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68 四人目の家族

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ー おぎゃあ

1917年8月。

無事あの災厄から生還して家族の元へ戻って来たユリウスは、月満ちて無事元気な女の子を出産した。

前回のお産よりも遥かに苦難の多い過程であったが、そんな苦労をものともしない、前回同様の安産で、周りの人間を安堵させたと共に、改めて彼女の華奢な身体に秘められた強靭さを見せられたのだった。

産まれた女の子は、兄とは逆に、母親譲りの、陽の光に透けるような明るい金の巻き毛に父親譲りの暖かな鳶色の瞳を持った美しい赤ん坊だった。

ベッドの上で赤ん坊を抱いたユリウスに、アレクセイとミーチャが対面する。

「お前によく似た…綺麗な女の子だな」

「本当だ…こんなに小さいのに、母さんにそっくり」

母親の腕に抱かれてスヤスヤと眠る子供を覗き込んだ二人が美しい赤ん坊を賞賛する。

「色々あったけど…こうして無事にこの子を抱く事が出来て…本当に良かった」
ユリウスの碧の瞳に忽ち涙が込み上げて来る。

「泣くな…」

アレクセイが、涙に濡れた妻の長いまつ毛をそっと指で拭ってやった。

「あのね…この子の名前なのだけど…」

ユリウスが切り出す。

「アルラウネにしようと思うんだ」
「アルラウネと名づけたいなと思うんだけど」

二人の口から同時に出た同じ名前に、二人は一瞬顔を見合わせ、プッと吹き出した。

「意見が…一致したな」

「そうだね」

声を立てて笑いながら二人が頷きあった。

そんな二人にミーチャが尋ねる。

「アルラウネって、だあれ?」

「何だ⁉︎お前、あんなに懐いていた伯母さんの事、忘れちまったのか?」
― ったく、薄情なやっちゃなぁ。

父親の呆れたような声に、母親がクスリと笑いながら息子を弁護する。

「懐いていたとはいっても…ほんの赤ん坊の頃だもの。憶えている筈ないよ。でも、本当にミーチャは伯母さんにー、アルラウネによく懐いていたんだよ」

「ふうん…そうだったんだ。どんな人だったの?会いたいなあ」

「綺麗で、強くて、聡明で…」
「そして、とても優しくて愛情深い女性だった」
アレクセイの言葉をユリウスが継いだ。

「あなたの名前は…アルラウネですよ。宜しくね、小さなアルラウネ」

母親が小さな娘の白い頬に自分の頬をすり寄せた。

そしてそんな幸せに溢れたアパートの一室を―、向かいの通りの一角から、ロストフスキーが見つめていた。
作品名:68 四人目の家族 作家名:orangelatte