はろー、まいでぃあ!
ばかにしているの、
そいつは驚くほど低いこえで唸った。は、と振り返ると、唇をぎゅうときつく噛み締めて、恐ろしい形相でこちらを睨みつけていた。え、は、なに、どうして、意味が判らない。唖然として間抜け面を晒していると、尚も噛み付くようにきゃんきゃんと騒がれる。なんなの、なんなの、そうやって、いつも、そうやって、なんでもないよーなフリして気遣って、なんなの、俺を、ばかにしているの!
ああ。はた、と思いつく。しかし何のことは無い、ただ買った袋を持っただけだ。別にこいつに限ってのことではない。だがしかし余りにも自然なその行為は、思いのほかそいつの琴線に触れたらしかった。なんだよう、俺は、女の子じゃあないんだからね!俺よりも若干身長が低いくせに、かなりの迫力で叫んでいるのが、まるで小型犬が吠えているみたいに見えて、思わずくすりと笑ってしまった。
あ、やばい。直ぐにそう思ったが、遅い。そいつは更に眉根を寄せて、ずかずかとこちらへ歩み寄って来た。ずしん、ずしん、ずしん。それは実際には軽やかで、そんな音は鳴る筈がないのだけれど、そのあんまりな勢いにそんな幻聴が聴こえた。
ぴたり。と、丁度俺の目の前で止まる。だがしかし先述したように若干(いや違うか?)の身長差があるから、視線は交わらない。どうするのかと思い、そのまま観察でもするように眺めていると、いきなり、唐突に、え、キス?
ぐ、と頑張って背伸びをして、荒々しく乱雑に唇に触れる。それはいつもよりも饒舌で、ぬめりながら口内を弄った。俺はと言えばもう混乱してしまって、目を白黒とさせるばかりだ。え、なんで、え?
息継ぎをしながら、それでも飽きることなく性急に食べ合う唇。吐息が、そいつの吐息が乱れていて、仕掛けてきた方が余裕ないってのはどうゆうことなんだ。とぼんやり思う。随分長々と交わした後に、かろく、ちゅ、と音をたてて、離された唇。
しばし、呆然としていた。そいつはこれまた乱雑に、ぐいぐいと唇とその周りを拭い、どーだ。してやったり。とばかりに自慢気なカオをした。俺はもう可笑しくて可笑しくて、そいつが不機嫌になることも構わずに、盛大に笑い出してしまった。案の定、そいつはぽかんとして、直ぐに眉を吊り上げてまた喚きだした。
なんだよ、なんで笑ってんのさ!お、まえ、なに、キスしたら有利とか思ったワケ?ちっがうよっ、あーもー、なんかこう、じぶんから攻めてみたくなったの、ばかっ!耳まで真っ赤にして、子供のように激昂する。その様子が、とても愛おしく感じられて、俺は、今度は優しいキスをしようと、その両耳を挟み込んだ。
、ひどく可愛らしい恋人に。
(ばかになんかしていない。あいしているんだ!)
作品名:はろー、まいでぃあ! 作家名:うるち米