子犬のワルツ。
Epilogue
庭で昔のことを思い出してまたふふふと笑っていたら屋敷の方からトルテと紅茶を乗せたトレーを持ってエリザが歩いてきます。
なんだかご機嫌ですね、というので貴女のことを考えていたんですよ、と返す。
「え・・私、また何かしましたっけ・・・?」
「いえ、そうじゃないんです。随分前のこと、20年ほど前ですか」
「んー・・・全然思い当たる節がないです」
「・・・あの人が折角素直にお礼を言ったのに惚けたのでしょう?」
彼女はう、と言葉に詰まって目をそらして紅茶を飲む。
彼の時のように惚ければいいのに、こういうわかりやすい反応を返してくれるのは嬉しい。
それがまたおかしくて、努めてゆっくり優しく問う。
「国境開放が彼の為、だなんて知られたくなかったんですか?」
「・・・アイツのため、・・・とは違いますよ」
コトン、とカップをソーサーに置いて、わかりやすい、むっとした顔になる。
「昔、プルツェンラントを取り返してもらった借りを返しただけです」
「そうですね、兄弟は一緒にいるべきですからね」
どうしても照れがある彼女の後付の理由を適当に流したらこの後、随分とふて腐れてしまいました。これからピアノを弾いてご機嫌を取るところなんですよ。