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みんと@ついった中毒
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朝の一コマ

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まどろみの中に溶け込んでどこが境目なのかわからないほどにとろとろになった空気が周りを包み込んでいた。例えて言うならそれは揺り篭に揺られたような心地よさに似ている。ゆらゆらとなにか暖かいものに揺られているようなその心地よさは、今が朝なのか夜なのかそれさえもどうでもよくさせてしまう何かを秘めていた。腕の中がやけに暖かくて、トクントクンと波打つ鼓動が愛おしくてたまらない。半分夢の中にいるかのように、靄がかかったような頭で腕の中にいる愛しい人をひたすらに思った。ぎゅっと抱きしめる力を強くすると髪の毛がふわりと顔に当たり少しくすぐったかったが、ふわふわとしたその感触は気持ちがよかった。
思った以上に強く抱きしめてしまったのか、もぞりと動くのが肌を通じて感じたので少し腕の力を緩めると、呂律の回っていない口調で「ヴェスト?」と擦れた声でおれの名前を呼んだ。その擦れた声が砂糖菓子のようなほんのりとした甘さを含んでいて、もういっそその声ごと奪ってしまい衝動に駆られた。塞ぐように、だけれども優しくその唇に被さると驚いた顔が視界いっぱいに広がる。だがすぐにうっとりとした表情に変わり驚いて見開いていた目がそっと閉じられた。お互い目が完璧に覚めていないせいか、力の入らない状態でゆったりと唇を貪ったあと啄ばむようなキスをした。一瞬目と目が合って、くすっと笑いを浮かべながらじゃれるようにあちこちにキスを降らす。くすぐってえよ、とくすくす笑いながらそれを気持ちよさそうに受け入れているその姿があまりに可愛く感じて、さらに抱き合う力を強くした。素肌が触れ合っていることで昨夜の余韻が色濃く残っているように感じる。どこもかしこも繋がっているようにドロドロに溶けきっていっそひとつになっているのではないかと錯覚してしまうくらいだった。曖昧な境界線が心地よくてこのままずっとまどろんでいたいと思った。
カーテン越しの朝の光はまぶしくはないが灯火のような絶妙な光加減で、それがまたこの空間を離れがたいものにしていた。眠気というよりは、気だるさの中にずっぷりとはまってしまって抜け出せない。むしろそこから抜け出したいのかさえもわからなかった。
わけのわからない心地よさから抜け出してしまって、いつものように朝食を準備して犬たちの散歩に出掛け、そのあと買い物に出掛けるような休日だってもちろん魅力的ではあるのだが、どうしてもこのまどろみからは離れられそうにない。
首筋にうずめていた顔を上げて髪の毛の生え際にキスを送る。するとおれの意図がわかったのか、お返しとばかりにおれのまぶたにキスをくれた。頬、鼻の頭、額、唇にキスを降らしていく。そうやってしばらくお互いに軽いスキンシップのようなじゃれあいをしていると、たまらない暖かさで胸がいっぱいになった。この思いに名前をつけるのならば、これこそが幸せなのだと思った。
「兄さん、愛している」
ぽつりとこぼれた言葉は空気を振動させて相手の鼓膜へと伝う。少しだけぱちくりと目を瞬かせてから額をこつんと合わせて「ばーか」と嬉しそうに笑った兄の耳は少しだけ赤かった。
そのままするりと力の入りきらない手がおれの頬に当てられる。口の動きだけで「ヴェスト」とおれを呼ぶと、めったにしない柔らかくふわりと春の訪れを感じさせるほどの暖かい笑みを浮かべてその人は笑った。
ああ、もうしばらくこのままで。そう願わずにはいられなかった。